はじめて遺産の相続手続きを行う際、「何からはじめればいいのか」「どのようにわけるべきか」など、さまざまな疑問や不安を感じている人は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、相続財産の分配方法をわかりやすく解説していきます。
分配する際の注意点も解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
相続財産の分配方法の概要
相続財産の分配とは、亡くなった人の遺産を相続人で分ける行為です。
相続財産の分配方法は、「遺言書がある場合」と「遺言書がない場合」で手続きが大きく異なります。
遺言書がある場合は原則として遺言書の内容に従って分配し、遺言書がない場合は相続人全員が参加する話し合いによって分配割合を決定するのが一般的です。
まずは、相続財産の分配をはじめる前に、亡くなった人が遺言書を残しているかどうかを確認してみましょう。
遺言書がある場合の2つの相続財産分配方法
亡くなった人が遺言書を残していた場合の分配方法には、主に以下の2つがあります。
- 【原則】遺言書に基づいて分配
- 【例外】遺言書と異なる内容で分配
有効な遺言書であれば、遺言書の内容に基づいて分配をするのが原則です。
しかし、遺言書の内容や状況によっては、遺言書と異なる方法で分配するケースもあります。
それぞれのケースについて、以下で詳しく確認していきましょう。
【原則】遺言書に基づいて分配
遺言書には、亡くなった人の意思によって、相続人に相続される財産の種類や割合などが記載されています。
相続財産の分配の際には、亡くなった人の意思は、法律で定められた「法定相続分」よりも優先されます。
詳細は後述しますが、法定相続分とは、各相続人にどのような割合で財産を相続させるかの目安を法律で定めたものです。
遺言書がある場合、亡くなった人の意思を尊重し、基本的に遺言書どおりに財産が分配されます。
【例外】遺言書と異なる内容で分配
以下のケースに当てはまるような場合は、例外的に遺言書と異なる分配がされます。
- 相続人全員の合意を得て遺産分割協議を行った場合
- 遺言書で指定された配分が遺留分より少なく、遺留分侵害額請求を行った場合
遺言書に納得できない相続人がいる場合、相続人全員の合意を得れば、遺産分割協議によって遺言書と異なる分配ができます。
遺産分割協議とは、遺産の分け方について決めるための相続人同士の話し合いです。
また、遺言書で指定された遺産の分配が「遺留分」よりも少なかった場合、遺産を多く取得した相続人へ遺留分を請求できます。
遺留分とは、各相続人に対して、法律上確保された最低限度の遺産の取り分です。
遺言書に基づいた分配がされた場合でも、「遺留分侵害額請求」を行えば遺留分の財産をもらえるのです。
遺言書がない場合の2つの相続財産分配方法
遺言書が残されていなかった場合の相続財産の分配方法は、以下の2つです。
- 遺産分割協議で分配
- 法定相続分で分配
遺言書がない場合、基本的には相続人同士の話し合いで遺産の分配方法を決めなくてはなりません。
トラブルになるケースも考えられるため、慎重に進めていく必要があります。
遺産分割協議で分配
遺言書がない場合、基本的には遺産分割協議と呼ばれる相続人同士の話し合いで遺産の分け方を決めます。
遺産分割協議には、相続人全員の参加が必須となります。
協議の期限は決まっていませんが、相続税の申告期限は故人が亡くなった翌日から10カ月以内です。
相続税の申告が必要な場合は、申告期限までに財産の引き継ぎについて決めておかなければならないため、できる限り早めに行うようにしましょう。
遺産分割協議で当事者が合意した場合、次の項目で解説する「法定相続分」とは異なる割合で相続財産を分配できます。
法定相続分で分配
遺産分割協議で遺産を分配する際に、基準として参考になるのが法定相続分です。
法定相続分とは、法律上で決められた各相続人の分配割合をいいます。
法定相続分は家族構成や故人と相続人の関係性によって異なり、一例は以下のとおりです。
相続人 | 法定相続分の分配割合 |
配偶者のみ | 配偶者100% |
配偶者と子 | 配偶者1/2、子1/2 |
配偶者と父母 | 配偶者2/3、父母1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 |
たとえば相続人が配偶者と子ども3人の場合、配偶者が1/2、残りの1/2は子ども3人の中で分配します。
遺産分割協議で折り合いがつかずにもめている場合、法定相続分を基準として分配するというのも一つの手段でしょう。
相続財産の4つの具体的な分配方法
相続財産を具体的にどのように分配していくかについて、主に4つの方法があります。
相続財産の配分が決まったら、基本的には下記のいずれかの方法で分配していきましょう。
- 【現物分割】現状の形で分配
- 【換価分割】売却して現金で分配
- 【代償分割】多く分配された人が差額を払う
- 【共有分割】共同所有の形で分配
それぞれどのような分配方法なのか、次に詳しく解説していきます。
【現物分割】現状の形で分配
現物分割とは、亡くなった人の財産を現状の形のまま分配する方法です。
たとえば、預貯金は配偶者、不動産は長男、有価証券は次男といったように、個々の相続財産を分配します。
ほかの分配方法と比べて手続きが簡単でわかりやすく、遺産をそのままの形で残せるのが現物分割のメリットです。
しかし、法定相続分のとおりに分配するのは難しいため、不公平と感じる相続人が出る可能性もあるでしょう。
【換価分割】売却して現金で分配
換価分割とは、亡くなった人の相続財産を売却し、現金に換えた上で分配する方法です。
たとえば不動産を2,000万円で売却した場合、配偶者に1,000万円、長男と次男にそれぞれ500万円というように売却代金で分配します。
法定相続分に沿って分配できるため、公平になりやすいのが換価分割のメリットです。
デメリットとしては、遺産の現物を手放さなければならない点や、売却の手間・処分費用・譲渡取得税などがかかる点が挙げられます。
【代償分割】多く分配された人が差額を払う
代償分割とは、法定相続分を超える価値の相続財産を分配された人が、ほかの相続人へ差額を支払う方法です。
たとえば、長男が2,000万円の不動産を相続する代わりに、長男が次男へ1,000万円を支払うといった分配方法を指します。
不動産が欲しい人や現金が欲しい人など、個々の相続人のニーズを満たせるのが代償分割のメリットです。
ただし相続を受けた人は、ほかの相続人との差額を現金などで支払う必要があるため、まとまった金額を用意する必要があります。
財産の相続人に代償金を支払える資力がなければ、代償分割を行うのは難しいでしょう。
【共有分割】共同所有の形で分配
共有分割とは、財産を相続人の間で共同して所有する方法です。
たとえば相続財産である2,000万円の不動産を、配偶者が4分の2、長男と次男がそれぞれ4分の1所有するといったように分配します。
財産を現物のまま残せる点と、公平な分配ができる点が共有分割のメリットです。
ただし共有財産を売却する際は、共有している相続人全員の合意が必要な点は注意しておきましょう。
また、共同所有の相続人が亡くなった場合などに新たな所有者が加わると、トラブルに発展してしまうケースが多いのもデメリットといえます。
相続財産分配時の注意点
相続財産分配時の状況によっては、以下のような注意点が出てくるので事前に押さえておきましょう。
- 未成年者や認知症の人が相続人にいる場合は代理人を立てる
- 遺産分割協議がまとまらない場合、裁判になる可能性もある
未成年者や認知症の人など、判断能力が不十分な相続人がいる場合、そのまま遺産分割協議を行ったとしても、作成した協議書は無効になってしまいます。
そのため、遺産分割協議に参加する際は、未成年者は特別代理人、認知症の人は成年後見人などの代理人が必要です。
また、遺産分割協議で話し合いがまとまらない場合、裁判などの法的手続きに発展する可能性があります。
裁判などになると相当な手間や時間・費用がかかるため、可能な限り話し合いでの解決を図りましょう。
相続財産の分配方法で悩んだら経験豊富な弁護士に相談しよう
遺言書がある場合は、原則遺言書の内容に基づいて分配します。
遺言書が残されていない場合や、遺言書の内容に納得できないと主張する相続人がいた場合は、基本的に相続人同士の話し合いで決めていかなければなりません。
法定相続分のとおり分配するなどで折り合いがつけばいいですが、もめてトラブルになってしまうケースもあるでしょう。
「協議がスムーズに進まない」「どの分配方法を選ぶべきか」など、相続財産の分配方法で悩んだら、専門家である弁護士に相談してサポートしてもらうのがおすすめです。