大金が動く不動産売却の取引では、さまざまなトラブルが起こりがちです。売主は丁寧な事前準備や、不動産売買に対する知識を得ておくことでトラブルを回避できます。
このコラムでは、不動産売却にまつわる事例や対処法、共有名義の不動産売却、トラブルが起きた際の相談先について解説します。
せっかくの不動産の売却で損をしたり、人間関係を悪化させたりしないようにしましょう。
不動産売却で起こるトラブル事例
不動産売却でよく起こるトラブルの例として、以下の6つがあります。
- 仲介料のトラブル
- 土地の境界のトラブル
- 物理的瑕疵のトラブル
- 環境的瑕疵のトラブル
- 付帯設備・設備故障のトラブル
- 契約解除のトラブル
不動産売買の際に誰もが巻き込まれてしまうかもしれないトラブルなので、注意が必要です。
仲介手数料のトラブル
仲介料のトラブルについては、売主と不動産会社の間に起こる問題です。
不動産売却の際に不動産会社が間に入って仲介をしてくれた場合、仲介手数料が発生します。
仲介手数料をめぐるトラブルには、以下のようなものがあります。
- 法外な金額の仲介手数料を請求してくる
- 「仲介手数料無料」と言いながら「コンサルタント料」などの名目で高額な費用を請求してくる
- 仲介手数料は法律で決まっていると言って、勝手に金額を決める
このうち3つ目について、法律で定められているのは仲介手数料の上限のみです。そのため、上限以下の金額に収まれば問題ありません。
<仲介料の上限額>
売買価格 | 仲介手数料 |
200万円以下 | 売却価格の5%+消費税 |
200万円以上 〜 400万円未満 | 売却価格の4%+2万円+消費税 |
400万円以上 | 売却価格の3%+6万円+消費税 |
参照元:国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年建設省告示第1552号)
仲介手数料は売買契約締結に対する報酬額のため、のちに買主との間で売買契約が解除になった場合でも、原則として不動産会社への仲介手数料は支払う必要があります。
売買取引が始まるまでに、不動産会社との「仲介料」と「支払い条件」についてしっかり確認し、契約書への記載をおすすめします。
土地の境界のトラブル
境界のトラブルは、不動産の売却における典型といえます。
不動産売却の際には、境界が確定していることが原則です。境界が不明確な場合には不動産売却の前に売主側が確定測量を行い、土地家屋調査士の立ち会いによって境界を明示する必要があります。
隣家との境界や接している道路との境界は、国や自治体により厳格に決まっていますが、実際にはさまざまな理由で、境界が曖昧になっている場合があります。
- 実測図と実際の土地の状況が違う
- お互いに敷地をまたいでいることに気づいていない
- 間違った位置で塀やフェンスで区切られている
- 境界標が風化や災害で不明瞭になっている
通常時には特に問題なく暮らしていても、不動産売却となると公示内容と土地面積が変わっていることで固定資産税の額に影響が出るなど、境界は面倒で重要な問題です。
境界確定はお互いの話し合いの段階であっても長い年月がかかることもあり、裁判となると終わりが見えず、売却のタイミングを逸してしまいます。
自分の土地・建物の境界の問題については、いつの時点でもはっきりさせておくのが得策です。
物理的瑕疵のトラブル
物理的瑕疵とは「隠れた瑕疵」と呼ばれるもので、以下のようなケースが該当します。
- 雨漏り、水漏れ
- シロアリの発生
- 家の傾き
- 土壌汚染
- 地中埋設物 など
隠れた瑕疵は、購入時点で買主には発見不可能な欠陥なため、故意がなくても売主の責任が生じる場合があります。物理的瑕疵があることで、不動産の売却金額は何割か安くなってしまいます。
しかし隠れた欠陥が引き渡し後に発覚すれば多額の損害賠償や、欠陥箇所の修理・埋設物の除去・代金減額請求、悪ければ契約解除を求められる可能性があります。
環境的瑕疵のトラブル
環境的瑕疵とは、不動産自体ではなく周辺環境上の問題です。該当する例には以下のようなケースがあります。
日照・眺望の障害 | 近くに新たなビルの建築計画がある など |
心理的な忌避 | 墓地・火葬場・刑務所・風俗店 など |
日常的な危険 | 危険物取扱向上・危険物貯蔵施設・ガスタンク・高圧線鉄塔 など |
煤煙や異臭の発生 | 火葬場・ごみ焼却場・廃棄物処理施設・下水処理場・工場・畜産設備 など |
騒音や振動 | 鉄道・踏切・飛行場・航空基地・物流倉庫(大型車両の出入り)・遊戯施設 など |
他にも、工場による水質汚染・ごみの不法投棄による小動物の糞害や害虫の発生なども、環境的瑕疵に当たり得ます。
環境的瑕疵は不動産そのものでなく周辺環境に起因するものですが、売却時に告知していなければ、トラブルの元となりますし、損害賠償や契約解除が認められるケースもあります。
とはいえ、環境的瑕疵は判断が難しい問題でもあります。現象の感じ方は人それぞれであり、感じる側の主観であり、不快に感じる人もいれば何とも思わない人もいます。売主は長く住んでいて慣れてしまい、瑕疵と感じていない場合もあるので注意が必要です。
付帯設備・設備故障のトラブル
付帯設備とは、不動産に付属している水回りや給湯設備などを指し、売主が持ち出さずに残していくつもりのエアコンや照明器具・収納・ソファなどの家具などは、付帯設備の中でも残置予定物に該当します。残置予定物として買主があると思っていた設備が実際にはなかった場合、トラブルになる可能性があります。
また、設備の故障や不具合についてもトラブルが多く起こるため、告知忘れがあってはいけません。
契約解除のトラブル
不動産売買の契約が最終的に締結されなかった際に、申込金や手付金の返還について売主と買主の間にトラブルが起こる場合があります。
申込金は不動産購入前に買主が売主に支払う費用で、申込金の支払いにより、買主は売主の不動産を購入するための権利を確保できます。契約が解除になった場合、申込金は買主へ返還されるシステムです。
手付金は、契約締結後に締結した証として買主が売主に支払う費用で、買主都合で契約が解除になった場合には、手付金は買主に返還されません。
この「申込金」と「手付金」を混同してしまい、トラブルとなるケースが少なくありません。
またよくある契約解除のトラブルの事例として、住宅ローン特約にまつわるケースがあります。
買主が住宅ローンを利用して不動産を購入する場合、期日までに審査を通過しなかった際は契約が白紙解除となり、売主は手付金を買主に返還します。この場合に重要になってくるのが、売買契約に住宅ローン特約がついているかどうかです。
住宅ローン特約がついていれば、規約に基づきスムーズに契約解除が行われますが、住宅ローン特約がついていなければ、契約解除を買主が受け入れないなど、トラブルの原因となります。
さらに契約解除は、売買契約締結まで進んだ取引が白紙になるため、売主としてもこれまでかけてきた期間が損失になるリスクがあります。
不動産売却で起こるトラブルへの対処法
不動産売却でのトラブルを避けるためには、事前の準備と対策が重要です。
- 不動産会社の比較検討
- 確定測量図や境界標の位置の確認
- 契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)についての知識
- 環境的瑕疵についての説明
- 付帯設備一覧表の作成
- 契約解除についての確認
少しの注意と手間がトラブル回避へとつながるため、これらを参考に対処しましょう。
不動産会社を比較検討する
不動産売却によるトラブルを避けるための対処法の第一歩は、不動産会社を探すところから始まっています。安心して仲介を任せられる不動産会社や信頼できる担当者を選べば、売主と買主の円滑なコミュニケーションをサポートし、多少のトラブルなら売主を巻き込まずに対応してもらえます。
不動産の査定額を高く算出し、どこよりも高額で売却できる点をアピールしてくる不動産会社が多いですが、大切なのは査定額の高さや不動産会社の規模よりも、トラブル時に頼りになるかどうかの信頼性です。
査定依頼は複数社で行い、売却価格の目安を知りましょう。一括査定サイトを利用すると便利です。
その中から信頼できる不動産会社を見つけ出せれば、例えば売主が気づかなかった瑕疵や不具合を確認してくれたり、トラブルの事前回避につながります。不動産売却のために安心してタッグを組める、信頼できる不動産会社や担当者を選びましょう。
地積測量図や標の位置を確認しておく
境界が確定している場合にも、念のために目視でわかる境界標の位置を確認しておきましょう。
境界標にはコンクリート杭や金属標の他に、石杭・プラスチック杭・金属鋲・木杭があります。道を歩いていると、表面に赤い印や文字の書かれたコンクリート杭や金属標を見かけることがよくあると思います。隣家や道路との境界がきっちり確定している場所に埋められているものです。
境界標が境界確定当時のまま残っていれば問題ありませんが、長年の間に劣化したり、なくなっていたりズレたりしている場合には、隣家の所有者に立ち会ってもらい、再度境界標を復旧設置する必要があります。
測量図には確定測量図・地積測量図・現況測量図の3種類がありますが、確定測量図が最も信頼度が高く、不動産売却の際に正式書類として使えるのも確定測量図です。
確定測量図 | 地積測量図 | 現況測量図 | |
境界の確定 | 〇 | ×
(2005年3月7日までは立ち会い必須ではなかった) |
× |
取得場所 | 測量会社 | 法務局 | 測量会社 |
面積の信用度 | 〇 | △
(古いものは測量の精度が低い) |
×
(測量がおおまか) |
使用する場面 | 不動産売買時
(土地の面積や境界を正確に把握する必要がある場合) |
土地の売却検討時など
(土地の面積を簡単に確認したい場合) |
家の設計をするときなど
(土地のある程度の面積を知りたい場合) |
確定測量図を売主や隣家の所有者が紛失している場合には、土地家屋調査士に依頼し、各所有者立ち会いのもと再度新しい確定測量図を作成しておきましょう。
また、売却前に土地の確定ができていない場合のとりあえずの対処法として「売主・買主・隣家所有者」の三者立ち会いのもと、境界を確定します。売主と買主の間で「境界確認書が取得できなかった」旨と「三者立ち会いのもとで境界確認を行い、境界確認書の取得に代える」旨の合意書を締結しておきます。
境界確定はトラブルのもとになる可能性がとても高いため、前もっての準備や対策は念入りに行いましょう。
契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)について勉強しておく
「瑕疵担保責任」として取り扱われていた事項は、2020年4月の改正民法の施行により「契約不適合責任」として取り扱われるようになりました。名称だけでなく、売主が負う責任の範囲や期間の捉え方が変更となったので、正しく理解しておく必要があります。
瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 | |
適用対象 | 「隠れた瑕疵」があるもの | 制限なし
(契約の内容に適合しないものすべて) |
買主の請求可能な権利 | ・契約の解除、
・損害賠償請求 |
・契約の解除
・損害賠償請求 ・代金減額請求 ・履行の追完請求 |
損害賠償の
売主の帰責事由 |
不要 | 必要 |
損害賠償の範囲 | 信頼利益
(買主を契約締結前の状態に戻す費用) |
履行利益
(契約が履行されれば買主が得られたであろう利益) |
買主の
権利行使期間 |
買主が瑕疵を知った時から1年以内に行使しなければならない | 買主が不適合を知った時から1年以内に不適合である旨を通知すればよい |
契約不適合責任では、何かトラブルが起こった際には、契約書の記載内容と適合しているかで判断されます。そのため契約書にはこれまで以上にこまかく、考え得るすべての瑕疵について記載しておく必要があります。
- 雨漏りしたことのある箇所や頻度
- 土台に腐食が見られる箇所や程度
- 水回りの不具合の有無と程度 など
ただし「契約不適合責任の免責特約」をつけることによって、売主の負担を軽減できるケースがあります。免責特約をつけられるかどうかなど、契約不適合責任は理解が難しい項目のため、弁護士など専門家の知識を借りると安心でしょう。
環境的瑕疵について不動産会社や買主に説明する
環境的瑕疵に対する対処も、物理的瑕疵の際と同様です。契約書への瑕疵の記載と免責条項を設けることで、売主の責任を担保できます。
また、環境的瑕疵は個人によって判断が異なってくるため、売主からの説明はもちろん、買主側からも気になる点を確認してもらうとよいでしょう。
のちのトラブルを避けるためには、環境的瑕疵に限らず、考えられる瑕疵についてはすべて不動産会社と買主に告知するのが重要です。
売主が付帯設備一覧表を作成する
付帯設備の齟齬や故障のトラブルを避けるために、売主は自分で付帯設備一覧表を作成しましょう。不動産会社が代わりに作成すると、見落としやミスが起こる可能性があります。設備については、ひとつひとつ動作確認をして、設備表に記載します。
あくまで引き渡す時点での設備の状況を明確にするためであり、故障が見つかった場合も修理をする必要はありません。
記載する項目について法律上の明文規定はありませんが、以下の項目については必ず記載しましょう。
給湯関係 | 給湯器・水道・ガスなど |
水回り関係 | キッチン・浴槽・シャワー・洗面台・水栓・トイレなど |
空調関係 | 冷暖房器具など |
照明関係 | 屋内・屋外の照明器具など |
収納関係 | 床下収納・天井収納・吊戸棚など |
建具関係 | 雨戸・窓・網戸・ふすま・障子など |
テレビ視聴 | TVアンテナ・衛星アンテナなど |
その他 | カーテンレール・扉・物置・車庫など |
残置予定物と撤去物の認識もはっきりさせ、トラブル回避のために、付帯設備一覧表を丁寧に作成するのが大切です。
売買契約締結前に契約解除について確認する
契約解除にまつわるトラブルの対処法としては、売買契約書締結前に契約解除に関する取り扱いを明確にしておくのが重要です。
契約解除に関する専門的な知識は売主個人では調べきれないので、不動産会社にサポートしてもらいましょう。不動産会社から適切なアドバイスをもらえない部分に関しては、他の専門家や専門機関に相談するのが得策です。
売買契約書には、契約解除に関して以下の事項を記載しておきましょう。
- 契約解除の取り扱いの期限
- 解除する場合の取り扱い方
- 解約手付の記載
- ローンが通らなかった場合は売買契約が無効になる特約の記載
解約手付については「売主の都合による契約解除の場合は手付金の2倍、買主都合による契約解除の場合は手付金の放棄」など、具体的な記載が必要です。
住宅ローン特約については売主にとってデメリットが多く思えますが、トラブルなく契約を解除できるため、売主は次の取引へ移りやすいという点でメリットはあります。
契約解除は取引自体を解消する大きな事態のため、トラブルとならないよう、事前にしっかりと取り扱いについて決めておく必要があります。
共有名義の不動産売却で起こるトラブル事例
ここからは、共有名義の不動産売却にまつわるトラブルについて解説します。
まず「共有名義」とは、ひとつの不動産を2人以上の所有者で共有している状態を指し、それぞれの所有者が持っている権利を「共有持分」といいます。
不動産が共有名義となるのは、以下のようなケースです。
- 夫婦が共有名義で新居を買う
- 相続した不動産を相続人で共有する
- 二世帯住宅を購入し親子の共有名義で登記する
一般的に共有名義の不動産には、トラブルが起こりやすいといわれています。
- 共有者が持分の不動産を単独で売却した
- 新たな共有者が持分を売って欲しいと交渉を持ちかけてくる
- 共有持分の売却をきっかけにした人間関係の悪化
起こりやすいトラブルと、トラブルついての対処法を把握しておきましょう。
共有者が持分の不動産を単独で売却した
共有名義の不動産全体を売却する場合は、共有者全員の合意が必要ですが、自分の共有持分だけであれば自由に売却が可能です(民法第206条)。
しかし新たな共有者は共有持分のみを取得しただけで、共有不動産自体を自由に使えるようにはなりません。結果的に、共有者間でトラブルに発展してしまう可能性があります。
また他の共有者にとっては、見知らぬ新たな共有者が現れることでトラブルの火種が生まれ、精神的な負担が大きくなると考えられます。
共有持分を単独で自由に売却できることで、トラブルが生まれる可能性が高まってしまう訳です。
新たな共有者が持分を売って欲しいと交渉を持ちかけてくる
新たな共有者としては、共有不動産全体を取得して自由にするため、他の共有者に持分の買い取りを迫るという行動は十分にあり得ます。
安く買い取って個人の単独所有にした不動産を高額で転売すれば、利益を得られるからです。新たな共有者が悪徳な不動産ブローカーだった場合には、他の共有者から持分を買い取るために手段を選ばず、嫌がらせを受ける可能性もあります。
他の共有者から持分を買い取り、不動産全体を売却することは、それだけのメリットがあるということです。
共有持分の売却をきっかけに人間関係が悪化した
共有持分の単独での売却は共有者間でトラブルになりやすく、他の共有者に知らせずに売却が行われた場合はなおさらです。
第三者が共有者となることで、それまで問題のなかった共有不動産の管理や利用がうまくいかなくなるなど、不都合が生じやすくなります。
そのため、持分を売却した共有者との人間関係の悪化が起こることもあり得ます。
共有名義の不動産は、共有者が親族など親密な関係の場合が多く、人間関係のトラブルは他のトラブルにもつながる可能性もあるため、避けたいところです。
共有不動産を手放したくない場合のトラブル対処法
共有不動産の単独売却が行われそれによりトラブルが発生した際に、共有不動産をどうしても手放したくない場合は、以下のような対処法があります。
- 新たな共有者から共有持分を買い戻す
- 共有物分割請求の裁判を起こす
いずれも簡単には進まない可能性がありますが、共有不動産を守るための手段として考えましょう。
新たな共有者から共有持分を買い戻す
共有不動産を手放したくない場合は、新たな共有者から共有持分を買い戻しましょう。
ただし、共有持分を買い戻すには新たな共有者と話し合いをし、お互いに合意しなければ成立しません。また、新たな共有者が不当に高額な金額を提示してくる可能性も十分あるため、不動産の相場をきちんと調べておく必要があります。
共有者がもともと2人で、新たな共有者から共有持分を買い戻せた場合は、自分の単独所有の状態にでき、難しい共有状態から解放される可能性もあります。
共有物分割請求の裁判を起こす
共有物分割請求訴訟とは、共有状態の解消方法を裁判所に決めてもらうための訴訟です。そのため、訴訟の結果が自分の思うとおりになるとは限りません。
新たな共有者に持分の買い戻しを求め、不当に高額な金額を提示された場合に、弁護士に相談して裁判で争うことは可能です。不動産鑑定士が適正な鑑定額を査定し、新たな共有者から適正価格で持分を買い戻せるかもしれません。
しかし逆に、裁判の判決による決定によっては、自分の持分を相手に売却する・不動産全体を競売にかけて換金する、などの結果になる場合もあります。
共有物分割請求訴訟は最終手段と考え、弁護士によく相談しましょう。
共有不動産を手放しても良い場合のトラブル対処法
共有不動産を手放してもよいという場合は、以下の方法で対処しましょう。
- 新たな共有者と協力して不動産全体を売却する
- 新たな共有者に自分の共有持分を売却する
- 自分の持分を共有者専門の買取業者に買い取って貰う
不動産を手放すことでトラブルを回避し、面倒な共有状態の解消も叶います。
新たな共有者と協力して不動産全体を売却する
新たな共有者を含めた他の共有者全員の協力を得て、不動産全体を売却できないか相談してみましょう。全員の合意が得られれば不動産を売却し、得た利益を持分割合に応じて分配します。共有持分だけの売却より多額の利益を手にできる可能性が高いため、交渉には応じてもらいやすいでしょう。
共有名義の不動産のトラブルを解決するための対処法としては最もスムーズな解決策といえます。
新たな共有者に自分の共有持分を売却する
他の共有者のうちひとりでも合意を得られない場合、不動産全体の売却はできません。
その場合、新たな共有者や他の共有者に、自分の持分の売却を持ちかける方法があります。新たな共有者や他の共有者にとっては持分割合を増やせるため、悪い話ではありません。
また自分も持分を換金することで共有状態から抜け出すことができ、お互いにとってメリットのある方法です。
自分の持分を共有持分専門の買取業者に買い取ってもらう
自分の持分の売却方法として、買取業者を選ぶ方法があります。
新たな共有者や他の共有者が不動産全体の売却に合意してくれない場合、自分の持分を売却して共有状態を解消するのもひとつの手段です。単独での持分売却のため、さらにトラブルを悪化させないよう、他の共有者には売却する旨を先に告げておきましょう。
共有持分専門の買取業者であれば、持分のみの売却にも対応可能で、短期間で売却できます。
共有名義の不動産トラブルで、共有者間での解決が見込めない場合には、自分の持分を手放して、共有状態から抜け出しましょう。
不動産売却でトラブルが起きた際の相談窓口
不動産売却でトラブルが起きた際にどこに相談すればいいのか、事前に把握しておくと、トラブル時に慌てずに済みます。
主な相談先は以下のとおりです。
- 不動産会社の営業責任者
- 宅建協会などの相談窓口
- 弁護士や司法書士などの専門家
- 都道府県庁の相談窓口
- 国土交通省各地法整備局
- 国土交通省「住まいるダイヤル」
- 国民センター・消費生活センター
トラブルの内容や状況によって相談窓口が異なってくる場合もあるので、全体に目を通しておきましょう。
取引を行った不動産会社の営業責任者・相談窓口
まずは売却の取引を行った不動産会社の営業責任者に相談してみましょう。
取引の内容を把握し、書類等も保管してあるので話がスムーズです。また不動産会社としても、自社で扱った取引のトラブルを大ごとにはしたくありません。
大手の不動産会社にはお客様窓口や相談窓口が設けられている場合が多いので、そちらへ連絡してもよいでしょう。担当者や責任者に直接話しにくい場合は、相談窓口の利用をおすすめします。
取引を行った不動産会社が所属している団体相談窓口
中小の不動産会社は団体に所属しており、トラブルに詳しい担当者もいるため、解決に向けた対応が期待できます。
一般的な不動産会社は①か②の団体に所属している可能性が高いです。
各団体は所属する不動産会社への指導をする義務があるため、不動産会社とのトラブルの場合の相談先として適しています。
弁護士・司法書士・税理士・土地家屋調査士・測量士などの専門家
専門性の高いトラブルの相談に関しては、それぞれのプロに相談しましょう。
弁護士 | 財産分与・遺産分割・その他トラブル全般 |
司法書士 | 登記に関する相談 |
税理士(税務署) | 不動産にまつわる税金の相談 |
土地家屋調査士 | 境界確定の依頼 |
測量士 | 確定測量図の依頼 |
各士業は連携を取り合っている場合が多いので、いずれかに相談すれば全体的な解決につながる場合もあります。
各都道府県庁の相談窓口
各都道府県にも不動産に関する相談窓口があるので、利用しましょう。
引用元:国土交通省 建設産業・不動産業 都道府県に関する窓口
国土交通省各地法整備局
不動産取引は国土交通省の管轄で、トラブルの相談や解決にも対応しています。
公式サイトに、都道府県ごとの管轄エリアの連絡先が記載されているので確認しておきましょう。
→国土交通局 地方整備局
不動産トラブルに関するデータベースもあるので、参考になる事例について検索できます。
→不動産トラブル事例データベース
国土交通省「住まいるダイヤル」
「住まいるダイヤル」は国土交通省から指導を受けた、住宅専門の無料相談窓口です。
一級建築士の資格を持った相談員が、物件や業者選び・住宅の欠陥やトラブルなど、住宅に関する相談に専門的な立場からアドバイスしてくれます。
→公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター
国民生活センター・消費生活センターなど
国民生活センターと消費生活センターは、サービス内容はほとんど同じですが、それぞれ運営元が異なります。運営元が違っても連携して業務を行っているので、どちらを利用してもよいでしょう。
国民生活センター | 消費生活センター | |
運営元 | 国 | 地方公共団体 |
連絡先 | 消費者ホットライン 「188」 | 国民生活センター(都道府県別消費生活センター一覧) |
相談日 | 月曜~日曜 10時~16時
(一部地域や年末年始、国民生活センターの建物点検日を除く) |
土日祝日休み |
サービス内容 | トラブルが発生した場合の調査
消費者への情報提供 |
トラブル解決のサポート |
消費生活センターの窓口は全国にあり、地域によって「消費者センター」「消費者生活センター」など呼び名が異なる場合があります。
消費生活アドバイザーなどの消費生活関連の資格を持ったスタッフが在籍しています。
国民生活センター・消費生活センターは幅広い相談を受け付けているため、何をどうしたらいいのかわからない、という段階からアドバイスを求めるのにおすすめです。
不動産売却を弁護士に依頼した場合のサポート内容
不動産取引においてなんのトラブルもなく終了するのであれば、弁護士に依頼する必要はなく、不動産会社に任せるかたちで進められます。
しかし不動産取引は非常に難解で、法律的なトラブルが発生する可能性が多くあります。
不動産取引に不安があったり、悩みを持っていたりする場合は、トラブルを回避するためにも弁護士への相談がおすすめです。
- 不動産売買契約書の作成・確認
- 不動産引き渡し後の瑕疵をめぐる対応
- 損失が発生しうる場合のサポート
弁護士に不動産取引のサポートを依頼するメリットとして、この3つについて解説します。
不動産売買契約書の作成・確認
不動産売買契約書の作成や確認は、弁護士に依頼するのが安心です。
不動産売買契約書に限らず、契約書は内容が非常に難解で、かつ買主に有利な条件が記載されている場合もよくあります。
契約書を最初から最後まで熟読したことがある方は少ないのではないでしょうか。ついつい、ざっと目を通すだけで、求められた箇所に署名をしてしまいがちです。
しかし不動産の取引は大金が動くため、のちのトラブルを防ぐためにも内容をしっかり確認する必要があります。法律的な内容も多く、間違いや問題のない契約内容にするために、不動産売買契約書の作成や確認は、弁護士に協力を得るのが安全な方法といえます。
不動産引き渡し後の瑕疵をめぐる対応
不動産引き渡し後の瑕疵については、売主が契約不適合責任を負うことにもなり、慎重な対応が求められます。地中埋設物の発覚や法律的瑕疵など、個人で対応するには難しい場合もあり、弁護士に依頼していれば事前に防げるだけでなく、トラブル発生時の対応も任せられます。
地中埋設物とは、古い水道管やガス管などの設備や井戸・建築残材などが売却した土地の中に埋まったままになっている状態で、売主が撤去しなければいけません。
法律的瑕疵とは、市街化調整区域による制限や接道義務による制限など、法律による制限によって自由に建物を建てられず、土地を有効活用できないことで、買主への事前の告知が必要です。
当人同士の話し合いでは感情的になってしまうこともあり、弁護士にトラブル解決の依頼をするのが良策です。
損失が発生しうる場合のサポート
住宅や土地などの不動産を売却した場合、必ずしも利益が出るとは限らず、購入価格より売却価格が下がることもよくあります。
できるだけ損失を少なくし、譲渡損失を適切に処理してもらうために、損失が発生する際には弁護士に依頼するとよいでしょう。
不動産売却のトラブル対処には事前準備と適切な相談を!
不動産の売却にはさまざまなトラブルの可能性があり、必要な事前の準備と頼れる相談先について解説しました。
不動産取引は、人生で一度は経験するものではないでしょうか。大きなお金が動く取引のため、トラブルを起こさず、気持ちよく取引を終えたいと誰もが思うものです。
今回の記事を参考に、不動産売却によって起こりうるトラブルを知り、事前にできる準備や対策とトラブルが起きた際に適切な相談ができる場所を把握し、不動産取引に臨みましょう。