遺言書の内容に注意!相続する家族の遺産が思わぬ人に?

遺言書の内容に注意!相続する家族の遺産が思わぬ人に?

「遺産は家族だけが受け取れるものじゃないの?」

「遺言書に書いてあることはその通りにしないとだめ?」

遺言書は、残された家族間の争いを避けるために相続方法や相続相手を指定できるものであり、法的な要件を満たしていれば自由に作成できます。

そして遺言書によって、相続人である家族以外の者に財産を譲ることも可能です。

本記事では、遺言書によって被相続人の財産が思わぬ相手に受け継がれる可能性があること、場合によっては法定相続人が対抗する手段もあることなどについて解説します。

目次

遺言書の内容は優先される

遺言書の内容は優先される

遺言書は遺言者の最終意思表示であり、遺言の内容は相続人や第三者の同意に関わらず尊重されます。

これは民法の三大原則のひとつである「所有権絶対の原則」に基づいており、遺言者は自分の財産に関して自由な決定が可能です。

相続の優先順位は以下の通りになります。

  • 遺言書
  • 遺産分割協議
  • 法定相続分

遺言書の中には相続人の一部が納得できないものや、相続人全員が納得できない場合もありますが、原則として当事者が納得できなくても遺言書の内容に従わなければいけません。

遺言書でできること

遺言書でできること

遺言書では遺言者の最後の意思表示として、法的効力を持った指定事項から、これまでの感謝の言葉など、さまざまな事項を書き残せます。

その中からここでは、家族である法定相続人が遺言書で初めて知る可能性がある事項として、以下の3つを挙げたいと思います。

  • 法定相続人以外に遺産を遺贈する
  • 遺産を寄付する
  • 子の認知

いずれも相続財産の分配に関わる事項です。それぞれについて解説します。

法定相続人以外に遺産を遺贈する

遺言書によって、法定相続人以外の者に財産を残すことを「遺贈」といいます。

遺贈とは遺言者が家族以外に資産を残すための意思表明であり、相続人の同意を得ることなく、家族以外の第三者への財産の譲渡が可能です。

親身に介護をしてくれたヘルパーや恩人・友人・内縁の妻など、遺贈は血縁関係のない者にも適用され、遺言書の効力により法定相続分よりも優先されます。

遺産を寄付する

遺言書を通じ、NPO法人やボランティア団体などの社会貢献団体に、財産を寄付できます。遺贈も寄付も、相手は個人だけでなく、団体や法人の指定が可能です。

また遺言書による遺贈や寄付は、財産をあげる側だけの意思で作成できるため、財産をもらう側の者の了承を得ておく必要はなく、財産を譲りたい旨をあらかじめ伝えていなくても問題はありません。

最近では、お世話になった施設などの慈善団体へ財産を寄付するケースも増えています。

子の認知

婚姻していない女性との間に子がいる場合、遺言書に「子を認知する」と記述することで、死後、遺言執行人により子の認知の届け出が行われます。

遺言執行者とは、遺言の内容を実現させるために必要な一切の行為を行う者であり、遺言者の意思により、遺言書で遺言執行者を指定できます。

(遺言執行者の権利義務)第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第1012条第1項
(遺言執行者の指定)第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第1006条

ただし認知の場合には、遺言者の意思のみでなく、以下の要件が必要です。

  • 認知される子の承諾
  • 母親の承諾(子が未成年の場合)
  • 遺言執行人の指定

認知により遺言者の子として認められた者は、非嫡出子として、嫡出子と同じ割合での遺産の相続が可能です。

参照元:法務省 / 民法の一部が改正されました

遺贈の種類

遺贈の種類

法定相続人以外に相続させる遺贈には、2つの種類があります。

  • 特定遺贈:財産の内容を指定する
  • 包括遺贈:財産の割合を指定する

いずれを選択するかは遺言者が自由に決定できますが、特定遺贈を選択するケースが一般的といえます。

特定遺贈

特定遺贈は、遺言者が特定の財産を指定して相続人に譲る遺贈の方法です。財産内容が具体的に指定されるため、他の相続人との遺産分割協議は必要ありません。

例えば「自宅不動産を妻に」「現金1,000万円を長男に」「〇〇銀行△△口座の預金を長女に」といった表現になります。

遺言者が指定しない限りマイナスの財産は引き継がれない点や、財産の指定が明確のため遺言書の執行がしやすい点が特徴です。

ただし、遺言書の作成後の不動産などの財産価値の変化に対応できないため、不公平な状況が生じる可能性があります。

また、相続財産の記載が明確でないと、遺言が執行されない場合もあります。

包括遺贈

包括遺贈は、財産の全部や一部を具体的に指定せず、割合を指定して遺贈する方法です。

例えば「内縁の妻と認知した子に、それぞれ財産の3分の1ずつ」「財産の50%を長男に」といった形になります。

包括遺贈は特定遺贈と異なり、遺言書作成後の財産価値の変化に対応できる反面、財産を個別に指定しないため、マイナスの財産も含めて引き継がれる点に注意しましょう。

また遺言者が相続人以外の者に財産を譲る場合、法定相続人とともに遺産分割協議を行う必要があるため、円滑な話し合いが困難となる可能性もあります。

遺言者より先に遺贈相手が亡くなった場合

遺言者より先に遺贈相手が死亡した場合、遺贈は無効になります。

(受遺者の死亡による遺贈の失効)第九百九十四条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第994条

ただし遺言書に「受遺者が先に死亡している場合は、〇〇に遺贈する」などの意思表示が記載されていれば、任意の相手への遺贈は有効です。

相続人以外への遺贈にかかる税金

相続人以外への遺贈にかかる税金

法定相続人以外の者に財産を遺贈した場合にも、相続税は発生します。

税率については一般的な相続のケースと変わりませんが、法定相続人に認められている控除や特例が適用されない点に注意が必要です。

  • 相続税が2割増しになる
  • 相続人以外は基礎控除額などの控除や非課税枠が使えない
  • 不動産の遺贈では「不動産取得税」と「登録免許税」がかかる

遺贈に対する相続税の特徴を中心に解説します。

相続税が2割増しになる

財産を取得した者が「遺言者の配偶者・両親・子」以外の場合、相続税は2割増しになります。遺言者の孫や兄弟姉妹、家族以外の友人などが受遺者となる際は、納税額に注意が必要です。

この措置は、相続税の公平な負担を促すために設けられています。

例えば、遺言者から孫(子の子)へ財産を相続させる場合、通常は段階的に相続されるため、相続税が2回かかります。

  • 1度目の相続:遺言者から子への相続
  • 2度目の相続:子から孫(子の子)への相続

遺贈によって遺言者から直接孫へ財産を引き継ぐ場合、相続税の課税を1回減らす結果になるため、孫の相続税は2割加算されます。

ただし、代襲相続をした孫に2割加算は適用されません。遺言者より先に死亡している子の、相続人としての地位を引き継いでいるためです。

参照元:国税庁 / 相続税額の2割加算

相続人以外は基礎控除額などの控除や非課税枠の計算に含めない

相続税には「基礎控除」や「死亡保険金・死亡退職金の非課税枠」などの制度があります。

  • 基礎控除額:3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
  • 死亡保険金・死亡退職金の非課税枠:500万円 × 法定相続人の数

基礎控除額は相続人の数によって決まり、法定相続人以外はこの計算に含まれません。

つまり相続人以外の者が遺贈で財産を受け取った場合、基礎控除額は3,000万円のみとなります。

また、死亡保険金は法定相続人が受け取る場合に非課税となり、法定相続人以外が受け取る場合は非課税枠が適用されません。

未成年者控除や障害者控除・相次相続控除も相続人以外には非適用です。

遺贈は節税の対象外となる点が多いため、デメリットを考慮して判断する必要があります。

不動産の遺贈では「不動産取得税」と「登録免許税」がかかる

不動産の特定遺贈では不動産取得税が課せられます。包括遺贈や法定相続人の相続では、不動産取得税は非課税です。

不動産取得税については、2003年(平成15年)4月1日から2027年(令和9年)3月31日までに取得されたものに限り、固定資産税評価額の3%(通常は4%)の軽減税率が適用されます。

<不動産取得税の軽減税率>

適用期限土地家屋(住宅)家屋(非住宅)
2027年3月31日まで3%4%

不動産を登記申請する際は、すべてのケースにおいて例外なく登録免許税がかかります。

ただし登録免許税の税率は、法定相続人の場合は固定資産税評価額の0.4%であるのに対し、法定相続人以外への遺贈の場合は2%と、税金が大幅に高くなる点に注意が必要です。

参照元:国税庁 / 登録免許税の税額表

意に沿わない遺言書への対抗手段

意に沿わない遺言書への対抗手段

不平等な内容や、存在も知らなかった内縁の妻や認知した子への財産の遺贈など、法定相続人の意に沿わない遺言書が出てくる可能性について話を進めてきました。

原則として、遺言書の内容は法定相続分よりも優先されますが、対抗する手段はいくつかあります。

ここからは、遺言書に対して法定相続人である家族が取れる対抗手段について解説します。

  • 遺言無効確認請求訴訟を起こす
  • 相続人・受遺者全員の合意による遺産分割協議
  • 遺贈により侵害された遺留分の取り戻し

遺言者の意思に沿って円満に遺産を分割できるのが一番ですが、感情論からの争いや明確な遺留分の侵害がある場合などは、対抗措置を試みましょう。

遺言無効確認請求訴訟を起こす

遺言無効確認訴訟は、遺言が法的に無効であることを裁判所に確認してもらうための方法です。

遺言書を作成する際には遺言能力が必要であり、認知症などで遺言能力が欠如している場合にはその遺言書は無効になります。

<よく主張される遺言無効原因>

  • 遺言能力の欠如
  • 方式違背
  • 証人欠格
  • 共同遺言
  • 錯誤・詐欺・脅迫による遺言取消

まずは遺言書の効力を主張する者に対して無効を提示し、応じない場合には裁判所に遺言無効確認の訴えを起こします。

裁判所から無効確認の判決を得ることで、遺言に基づく財産分配を防ぐことが可能です。

遺言能力の欠如

民法上、遺言を残せるのは「15歳に達した者」かつ「遺言能力がある者」と規定されています。

第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第961条
第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第963条

法律上「遺言能力がある者」から、認知症や精神障害等を患っている者を対象外とする規制はないため,原則として認知症・精神障害等を患っている者であっても遺言書を残せます。

しかし遺言書作成時に、遺言者が認知症であったなどを理由に遺言能力が欠如していれば、その遺言書は無効です。

法定相続人にとって納得のいかない内容の遺言書が出てきた場合には、まず遺言者の遺言能力の有無について確認をしてみましょう。

方式違背

遺言における「方式違背」とは、遺言書を作成するうえで、法律に定められた形式に違反していることを指します。

民法では遺言書の要式について厳格に定められていますが、遺言者本人が自由に書ける自筆証書遺言については、特に慎重な注意が必要です。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第968条

日付や押印が抜けている・遺言書のすべてがパソコンで作成されているなど、遺言書が無効になるケースは少なくありません。

遺言書の方式違背については無効になる点が明確です。

内容についての争いが起きた際には、遺言書の要式が有効なのかチェックしてみましょう。

当事者のみで判断がつきにくい場合には、弁護士など専門家に依頼するのも手段のひとつです。

証人欠格

公正証書遺言を作成する場合には、2人以上の証人が必要です。

民法では未成年者や推定相続人などは証人になれない、と規定されています。

(公正証書遺言)第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第969条第1項
(証人及び立会人の欠格事由)第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第974条

したがって証人欠格者が遺言作成に関与していた場合は証人として数えることができず、結果的に2人以上の証人が揃っていないため、遺言書は無効となります。

共同遺言

2人以上の遺言者が同じ証書で遺言を書くことは、民法で禁止されています。

これを共同遺言と呼び、夫婦が同じ用紙に遺言を書く場合などが該当します。

(共同遺言の禁止)
第九百七十五条 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第975条

一方の遺言者の意思が他方の遺言者の意思によって制約されるおそれがあるため、共同遺言による遺言書は無効です。

ただし共同遺言は、あくまで同一の証書に2人以上の遺言者が遺言を書いた場合を指すため、それぞれが独立した証書に書いた遺言書を、一緒の封筒に入れておいたなどのケースは該当しません。

錯誤・詐欺・脅迫による遺言取消

錯誤・詐欺または脅迫による遺言は、取り消しが可能です。

この場合の錯誤とは、遺言者が重要な事実を誤認していた場合を意味し、遺言内容は遺言者の真意を反映していないと見なされるため、無効になります。

(錯誤)第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第95条
(詐欺又は強迫)第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第96条

ただし遺言者本人が亡くなっている場合、相続人などの第三者がこれらの事実を立証するのは困難です。そのため、これらの要因を主たる主張として遺言書の無効を争うケースはあまりありません。

公序良俗違反による無効

公序良俗に反する遺言は、民法の定めに基づき無効とされます。

不倫関係にある愛人に財産を遺贈する場合などが挙げられ、裁判によって無効とされた判例があります。

(公序良俗)第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第90条

遺言者は原則として財産を自由に処分できるものの、社会常識に反する遺言は無効です。

遺言の「撤回の撤回」

遺言は撤回可能で、撤回した遺言は失効しますが、撤回行為自体を撤回(撤回の撤回)しても失効した遺言の効力は復活しません。

(撤回された遺言の効力)第千二十五条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第1025条

ただし、最初の撤回の理由が錯誤や詐欺・脅迫による場合は、撤回の撤回によって遺言の効力が復活します。

相続人・受遺者全員の合意による遺産分割協議

法定相続人だけでなく、遺言書で遺贈を指定された家族以外の受遺者がいる場合はその全員の合意があれば、遺言書の内容と異なった遺産分割のための協議が行えます。

包括遺贈を受けた受遺者は法定相続人と同じ権利を持つため、遺産分割協議への参加が必要です。

法定相続人が遺言書を隠した・受遺者に知らせずに協議したなどの場合は、その遺産分割協議は無効になります。

遺贈により侵害された遺留分は取り戻せる

遺言書が有効であり、遺言書と異なる遺産分割協議の合意ができなかった場合は、遺言書の内容に従うことになります。

ただし遺言書の内容が「家族以外の第三者や、ボランティア団体にすべての財産を遺贈する」など、法定相続人の遺留分を侵害している場合には、遺留分侵害額請求によって、侵害を受けた遺留分相当額の取り戻しが可能です。

  • 遺留分とは
  • 遺留分侵害額請求権とは
  • 遺留分侵害額請求の流れ

遺贈により侵害された遺留分を取り戻す方法について解説します。

遺留分とは

遺留分とは、法定相続人が法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことです。

遺留分によって相続割合が保障されているのは、配偶者・直系卑属(子および代襲相続人)・直系尊属(被相続人の両親や祖父母)に限られています。

(遺留分の帰属及びその割合)第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第1042条

遺留分により保障されている法定相続人の相続分を表にまとめると以下のとおりです。

法定相続人遺留分
配偶者または直系卑属(子および代襲相続人)のみ法定相続分の2分の1
配偶者及び直系卑属(子および代襲相続人)配偶者:法定相続分の4分の1直系卑属:法定相続分の4分の1
直系尊属(被相続人の両親や祖父母)のみ法定相続分の3分の1
配偶者及び直系尊属(被相続人の両親や祖父母)配偶者:法定相続分の3分の1直系尊属:法定相続分の6分の1

直系卑属および直系尊属については、人数によって割合をさらに等分します。

なお、遺留分は遺族の生活保障が目的のため、経済的に自立しているとみなされる被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていません。

遺留分侵害額請求権とは

遺言による遺贈により、遺留分に相当する財産を受け取れない遺留分権利者は、遺留分を侵害されたとして、侵害額に相当する金銭の支払いの請求が可能です。

参照元:裁判所 / 遺留分侵害額の請求調停

遺留分侵害額請求をできる遺留分権利者は、以下の者になります。

  • 被相続人の配偶者
  • 被相続人の子(子が先に死亡している場合は代襲相続人である孫)
  • 認知されている非嫡出子
  • 被相続人の父母・祖父母

非嫡出子は婚姻関係にない男女の間に生まれた子ですが、認知されていれば実子と同じ法定相続人になるため、遺留分の請求も認められます。

相続順位および、遺留分の基準となる法定相続分は以下のとおりです。

相続において、被相続人の配偶者はいずれの場合も法定相続人となります。

遺留分割合と同じく、直系卑属および直系尊属については、人数によって割合をさらに等分します。

相続順位法定相続人法定相続分
第一順位配偶者と子配偶者:2分の1子:2分の1
第二順位配偶者と直系尊属配偶者:3分の2直系尊属:3分の1
第三順位配偶者と兄弟姉妹配偶者:4分の3兄弟姉妹:4分の1

法定相続人と法定相続分の計算については、以下を参考にしてください。

相続人計算式
配偶者のみ被相続人の財産×1/2
相続人が配偶者と子が相続する場合配偶者:被相続人の財産×1/2×1/2長男:被相続人の財産×1/2×1/2×1/2長女:被相続人の財産×1/2×1/2×1/2
子が3人の場合長男:被相続人の財産×1/2×1/2×1/3長男:被相続人の財産×1/2×1/2×1/3次男:被相続人の財産×1/2×1/2×1/3
配偶者と被相続人の直系卑属(父母)が相続する場合妻:被相続人の財産×1/3父:被相続人の財産×1/3×1/2×1/2

例えば、被相続人が遺産のすべてである1,500万円の預貯金と4,500万円相当の不動産を、法定相続人でない内縁の妻に遺贈する遺言書を残したとします。

配偶者と子1人が遺留分権利者であった場合、それぞれの遺留分は750万円です。配偶者と子は、遺留分侵害額請求権を行使することで、侵害された遺留分額750万円ずつの取り戻しが可能です。

遺留分権利者が配偶者と被相続人の両親(2人とも存命)であった場合は、配偶者の遺留分は1,000万円、両親それぞれの遺留分は250万円ずつとなり、各遺留分額を取り戻せます。

遺留分侵害額請求の流れ

遺贈により侵害された遺留分を取り戻すための遺留分侵害額請求について、全体の流れは次のとおりです。

①遺留分を侵害している相手と話し合う

まずは穏便に、法定相続人の遺留分を侵害している受遺者との話し合いを行いましょう。

遺留分の侵害額を確定するために、遺言者の遺産総額を正確に計算し把握する必要があります。

話し合いが平行線になる場合は、遺留分侵害額の返還交渉を弁護士に依頼するのも効果的です。

相手が返還に応じる場合は「遺留分侵害額に関する合意書」を作成し、返還期日などを確定させておきましょう。

②内容証明郵便で請求する

遺留分侵害額請求が話し合いで解決しない場合、調停や訴訟に進む可能性に備え、請求の意思表示を書面でも残すことが重要です。

内容証明郵便を使えば、送付日時や送付相手などを証明でき、裁判での証拠として提出できます。内容証明郵便には法的な強制力はありませんが、相手方に心理的なプレッシャーを与える効果があります。

内容証明郵便は書式などに厳密な要式があるため、不安がある場合は弁護士などの法律の専門家への相談をお勧めします。

③遺留分侵害額の請求調停を申し立てる

遺留分侵害額請求調停は、通常、相手方の住所地の管轄裁判所に申し立てます。

調停は話し合いによる解決を目指すものであり、法廷での審理ではなく、小会議室のような部屋で調停委員を交えた話し合いが行われます。

調停の申し立てに必要な申立書は、各裁判所の窓口・裁判所のホームページから入手可能です。

裁判所 / 遺留分侵害額の請求調停の申立書

④訴訟による遺留分侵害額の請求

調停が不成立に終わった場合は、遺留分侵害額請求訴訟を起こします。

ただし、遺留分侵害請求には時効があるため注意が必要です。

遺留分侵害額を請求できる期限は、遺留分の侵害を知った日から1年以内です。

また、遺留分請求権を行使しないまま1年経過した場合や、相続開始から10年経過した場合は時効が成立し、請求できなくなります。

遺言書による相続内容に納得がいかない場合は弁護士に相談を!

遺言書による相続内容に納得がいかない場合は弁護士に相談を!

亡くなった被相続人の家族である相続人は、相続によって遺産を受け取る権利があります。

しかし被相続人が遺言書で財産の振り分けを指定していた場合には、法律上、遺言書の意思が優先されます。

長くお世話になったヘルパーさんや施設への財産の遺贈も増えていますが、遺言書によって内縁の妻や認知している子を知る家族の驚きは計り知れません。

遺贈は法律的に認められた行為ですが、相続人である家族の感情の問題や、遺留分に関わる問題でもあります。

遺言書の内容について納得がいかない、遺留分が侵害された内容であるなどの場合は、早い段階で弁護士に相談しましょう。

法律の専門家である弁護士なら、被相続人の財産を守りたい家族の方々のため、最善の対応が可能です。

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