遺産相続で発生する税金は?相続税節税に役立つ控除や特例を紹介

「相続をしたら相続税はどのくらいかかってくるの?」

「相続税対策があるなら知りたい!」

被相続人から財産を受け継いだ場合には、相続税が発生する可能性があることは知っているものの、くわしい内容については実際に直面してみないとわからないものです。

相続税は、相続した財産から負債や葬儀費用などを差し引いた額が、定められた「基礎控除額」を超えると課税されます。また相続税は配偶者や子どもだけでなく、被相続人の遺言書によって友人や知人が遺産を受け取った場合にもかかるため、他人事ではありません。

今回のコラムでは、相続税対策のための控除や特例・相続税の計算方法などについて、シミュレーションを交えながら解説します。

目次

基礎控除額とは

基礎控除額とは

2015年(平成27年)の相続税法改正により、相続税が免除される基礎控除額が引き下げられました。

相続税は遺産総額に対してではなく、遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額に対し、法定相続分通りに遺産を分けた場合の各相続人の取得金額によって税率が決まります。

相続税の課税対象となる相続財産が、基礎控除額以下であれば税金はかかりません。

改正前の基礎控除額は法定相続人の数に応じて「5,000万円 +(1,000万円 × 法定相続人の数)」だったものが、改正後は「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」となり、相続税の課税対象者は約2倍に増えました。

しかし実際は以下の表のとおり、相続税が課税される割合は10%未満に抑えられており、基礎控除やその他控除の適用が大きく関わっているといえます。

年分 課税された割合
2022年(令和4年) 9.6%
2021年(令和3年) 9.3%
2020年(令和2年) 8.8%
2019年(令和元年/平成31年) 8.3%
2018年(平成30年) 8.5%

参照元:国税庁 「令和4年分相続税の申告事績の概要」

基礎控除額は、相続税が発生する判断基準となる重要なポイントです。

遺産相続で相続税がかかる目安は3,600万円

遺産相続で相続税がかかる目安は3,600万円

法定相続人の数に応じて、具体的に基礎控除額を計算したのが以下の表です。

法定相続人が1人の場合は基礎控除額が3,600万円となり、遺産相続による取得財産が3,600万円未満であれば相続税は課税されません。

相続税が課税される取得財産の最低ラインは、3,600万円が目安となります。

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円
5人 6,000万円

法定相続人が1人増えると、基礎控除額は600万円加算されます。自身のケースでの法定相続人の数を当てはめ、計算してみるといいでしょう。

法定相続人の範囲と法定相続分

法定相続人の範囲とその相続分について、簡単に触れておきます。

これらについては、民法第900条によって定められています。

(法定相続分)

第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。

二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。

三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。

四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第900条

条文を分かりやすく表にまとめたのが、以下の表です。

相続順序 法定相続人と相続割合
第一順位 配偶者:2分の1

子:2分の1

(子が複数いる場合はさらに等分)

第二順位 配偶者:3分の2

直系尊属(両親):3分の1

(直系尊属が複数いる場合はさらに等分)

第三順位 配偶者:4分の3

兄弟姉妹:4分の1

(兄弟姉妹が複数いる場合はさらに等分)

被相続人の配偶者は常に法定相続人となり、配偶者以外の法定相続人は順位の高いものから適用されます。

第一順位の子がいない場合は相続権が第二順位に、第二順位の直系尊属がいない場合は相続権が第三順位に、といった具合です。

基礎控除以外の控除や特例

基礎控除以外の控除や特例

基礎控除額を超えても、必ず相続税が発生するわけではありません。相続税にはさまざまな控除制度や特例があります。

ここでは、代表的な控除制度と特例について解説します。

  • 配偶者の税額の軽減(配偶者控除)
  • 未成年控除
  • 障害者控除
  • 暦年課税の贈与税控除
  • 相続時精算課税の贈与税控除
  • 相次相続控除
  • 外国税額控除
  • 寄付金控除
  • 小規模宅地の特例
  • 農地の納税猶予の特例

控除制度や特例をうまく活用することで、相続税の節税が可能です。

配偶者の税額の軽減(配偶者控除)

被相続人の配偶者が遺産相続により取得した財産は、次の2つのいずれか多い金額までは相続税がかかりません。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額(遺産総額の2分の1)

配偶者が相続した財産が1億6,000万円以下であれば、配偶者の相続税は非課税となります。

また例えば、被相続人の遺産総額が10億円、法定相続人が配偶者と子2人だった場合、単純計算で配偶者の法定相続分は5億円です。

遺産総額から基礎控除4,800万円を差し引いて計算すると、最終的に配偶者の相続税額は1億7,810万円になります(税額の詳しい計算方法については、後の章で触れます)。

配偶者控除の1億6,000万円は超えていますが、配偶者の法定相続分である5億円未満であるため、相続税は課税されません。※

ただし、配偶者控除を活用するための要件として、戸籍上の婚姻関係である配偶者であることや、相続税の申告手続きが必要になる点などに注意が必要です。

※配偶者の税額軽減をわかりやすく説明するための例であり、さまざまな要因を省いた単純計算になっています。

参照元:国税庁「配偶者の税額の軽減」

未成年者控除

未成年控除は、法定相続人が18歳未満の場合に受けられる控除です。

相続税額から「10万円 × 満18歳までの年数」が控除されます。

満18歳までの年数に1年に満たない期間がある場合は、切り上げて計算します。

未成年控除を利用するには、18歳未満の未成年者が遺産相続などにより被相続人の財産を取得した時点で日本国内に住所がある、などの要件を満たさなければいけないため、制度内容の確認が必要です。

参照元:国税庁「未成年者の税額控除」

障害者控除

法定相続人に障害者がいる場合に受けられる控除です。

要件として、遺産相続などにより被相続人の財産を取得した時点で85歳未満であり、日本国内に住所がある、などを満たしている必要があります。

また障害者控除は、等級など障害の重さによって控除額が異なります。

一般障害者:10万円 × 満85歳までの年数

特別障害者:20万円 × 満85歳までの年数

満85歳までの年数に1年に満たない期間がある場合は、切り上げでの計算になるのは未成年者控除と同様です。

一般障害者には、精神障害の等級での2級・3級及び身体障害の等級での3級〜6級が該当します。

特別障害者に該当するのは、精神障害の等級での1級、身体障害の等級での1級・2級です。

参照元:国税庁「障害者の税額控除」

暦年課税の贈与税控除

暦年課税とは、贈与税制で規定されている課税方法のひとつです。

贈与税は、1年間に贈与される財産額が合計で110万円を超えた場合に発生し、贈与額が年間110万円までに収まっていれば非課税です。

従前は財産を譲り渡した人が亡くなる3年前からの贈与分が相続税の課税対象でしたが、令和5年度税制改正により、2024年1月1日以降は7年前から譲り受けた財産が相続税の課税対象となっています。

暦年課税の贈与税額控除とは、贈与時に支払っていた贈与税を相続税額から控除する制度です。

贈与時に贈与税を納付している場合、相続税と贈与税が二重で課税されることを防ぐため、贈与時に支払った贈与税が相続税額から控除されます。

参照元:国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」

相続時精算課税の贈与税控除

相続時精算課税制度も、贈与税制で規定されている課税方法です。

財産を譲り渡す父母・祖父母が60歳以上で、譲り受ける側の子・孫が18歳以上である場合に選択できます。

贈与額の累計が2,500万円までで、申告期限内に申告することで贈与税は発生しません。

2,500万円を超える贈与分については、課税対象になります。

令和5年度税制改正では、従前の特別控除2,500万円とは別に、年間110万円までは贈与税の対象外となりました。年110万円以下の贈与は、累計2,500万円の特別控除に含める必要もありません。

父母・祖父母が子や孫に財産を贈与する場合、暦年課税か相続時精算課税のいずれかを選択する必要がありますが、一度選んだら選び直せない点に注意が必要です。

相続時精算課税の贈与税控除は、暦年課税の贈与税額控除と同様に、相続時精算制度を選択してすでに納めた贈与税は、相続税額から控除される制度です。

参照元:国税庁「令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」

相次相続控除

相次相続控除とは、10年以内に2回以上の相続があり相続税を課せられている場合に、相続税の負担を軽減するための控除制度です。

被相続人が過去10年以内に、自身が相続人として相続税を納めているケースでは、2度目である今回の相続による相続税額から一定の金額が控除されます。

参照元:国税庁「相次相続控除」

二次相続の注意点

一次相続とは、例えば「夫が亡くなり、妻と子が相続人になるケース」などが該当します。

これに対し二次相続は「夫が亡くなった後にその妻が亡くなり、子が相続人になるケース」などを指します。一次相続で相続人であった者が亡くなり、被相続人となるのが二次相続です。

また一次相続で適用された控除が、二次相続では適用されないケースがあるため、一次相続で相続税がかからなくても、二次相続で相続税が課税される場合があります。

相続対策については、一次相続だけでなく二次相続までを視野に考えることが重要です。

外国税額控除

相続財産の中に外国の財産があり、国外で相続税や贈与税に相当する税金を課せられた場合、日本での相続税を一定額控除できます。

日本と海外での二重課税を回避するための制度です。

参照元:国税庁「居住者に係る外国税額控除」

寄付金控除

遺産相続などで得た財産を、相続税の申告期限までに以下の特定の団体や公益法人などに寄付・支出した場合、その財産は相続税の対象になりません。

  • 国への寄付
  • 地方公共団体への寄付
  • 公益を目的とする事業を行う特定の法人(大学法人など)への寄付
  • 認定非営利活動法人(認定NPO法人)への寄付
  • 特定の公益信託の信託財産としての支出

寄付金控除の適用のためには、相続した財産をそのままの形で寄付する必要があります。

また、認定を受けていないNPO法人に寄付した場合には控除は受けられません。

参照元:国税庁「相続財産を公益法人などに寄附したとき」

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、一定面積までの宅地の評価額が減額される制度です。

特例の適用を受けるためには、宅地の利用区分や条件などの要件を満たす必要があります。

宅地の区分や評価額の減額割合は以下のとおりです。

宅地の区分 限度面積 減額割合
特定居住用宅地など 330平方メートル 80%
特定事業用宅地など 400平方メートル 80%
貸付事業用宅地など 200平方メートル 50%

土地の評価額が最大で80%減額されたことにより相続財産が基礎控除内に収まれば、相続税は発生しません。

しかし配偶者控除同様、相続税が非課税であった場合でも、相続税の申告が必要な点に注意しましょう。

参照元:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」

農地の納税猶予の特例

農地の納税猶予の特例とは、農業を営んでいた被相続人から農地などを引き継いだ相続人が続けて農業を営む場合、取得した農地などの価格から「農業投資価格」による評価額を超える部分について、相続税額の納税が猶予される制度です。

農業投資価格は国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で設定されているため、確認してみましょう。

また、特例の適用を受けるためには被相続人と相続人にそれぞれ要件が設けられており、両方の要件を満たさなければいけません。

農地の納税猶予の特例は、農家の後継者育成の問題を税制面から助成することで、農業の後継者不足を防止する目的があります。

遺産相続による相続税の算出

遺産相続による相続税の算出

相続税額算出のために必要なのは「遺産総額」と「法定相続人の数」です。

相続税の対象となる遺産総額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を算出し、相続人の法定相続割合で分け、相続人各自の相続税額を計算していきます。

この章では実際に数字を当てはめながら、相続税の算出方法を解説します。

わかりやすくするため、遺産相続による相続割合は法定相続分そのままとし、基礎控除以外の控除や特例など、通常影響してくるであろう要因は省略した形で話を進めます。

遺産総額の把握

遺産総額には、プラスの財産だけでなく、負債などのマイナスの財産も含まれます。

遺産分割・相続税の計算・節税対策などのために、まずは対象となる遺産総額を正確に把握するのが大切です。

遺産の対象としては、以下のようなものがあります。

【本来の相続財産】

  • 現金・預貯金
  • 株式・債券などの有価証券
  • 家屋・土地などの不動産
  • 宝石・貴金属類
  • 売掛金・商品などの事業財産
  • 特許権・著作権などの各種権利

【生前の財産】

  • 相続開始前7年以内に被相続人から贈与された財産
  • 相続時精算課税制度の適用で贈与された財産

【みなし財産】

  • 死亡保険金(非課税限度額を超えたもの)
  • 死亡退職金(非課税限度額を超えたもの)

みなし財産の非課税限度額は、500万円に法定相続人の数を掛けた金額です。

また逆に相続財産に含まれないものとして、債務・葬儀費用やみなし財産の非課税財産などが挙げられます。

参照元:国税庁「相続税がかかる財産」

法定相続人の人数の確定

法定相続人は民法第900条で定められた相続人のことで「法定相続人の範囲と法定相続分」の項で説明したとおりです。

配偶者は常に相続人となり、その他の法定相続人は順位の高い者から優先的に相続人になります。

法定相続人を確定する際に、次の点には注意が必要です。

  • 相続欠格・相続廃除をした者、相続開始前に死亡した者は法定相続人に含まない
  • 相続放棄をした者は法定相続人に含む
  • すでに死亡した者に子(被相続人からみて孫)がいる場合、その生きている子を法定相続人とする(代襲相続)

法定相続人に漏れがあると遺産分割自体が無効になるため、法定相続人の確定は入念に行いましょう。

相続税速算表による計算

前述の例を用いて、実際に数字を当てはめながら相続税額を計算してみます。

被相続人の遺産総額:10億円

法定相続人:配偶者と子2人

単純計算で配偶者の法定相続分は5億円、子それぞれの法定相続分は2億5,000万円です。

法定相続人は3人のため、基礎控除4,800万円を遺産総額から差し引き、相続税がかかる「課税遺産総額」を算出します。

10億円 – 4,800万円 = 9億5,200万円(課税遺産総額)

次に、課税遺産総額を法定相続分で分けます。

妻:9億5,200万円 ×1/2 = 4億7,600万円

子1:9億5,200万円 × 1/4 = 2億3,800万円

子2:9億5,200万円 × 1/4 = 2億3,800万円

それぞれの課税遺産の法定相続分に、相続税率を掛け控除額を差し引き、各相続人の相続税額を算出しますが、ここで利用するのが以下の「相続税速算表」です。

<相続税速算表>

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

参照元:国税庁「相続税の税率」

妻:4億7,600万円 × 50% – 4,200万円 = 1億9,600万円

子1:2億3,800万円 × 45% – 2,700万円 = 8,010万円

子2:2億3,800万円 × 45% – 2,700万円 = 8,010万円

3人の相続税額を合計し、遺産の取得割合で案分します。

ここではわかりやすいように、法定相続分通りでの取得とします。

1億9,600万円 + 8,010万円 × 2 = 3億5,620万円

妻:3億5,620万円 × 1/2 = 1億7,810万円

子1:3億5,620万円 × 1/4 = 8,905万円

子1:3億5,620万円 × 1/4 = 8,905万円

算出されたのが、各相続人に課税される相続税額です。

実際には、配偶者控除や未成年者控除などが適応され、相続税が免除されることになります。

相続税早見表の活用

相続税額の計算が面倒で、だいたいの目安を知りたい程度の場合、以下の早見表を活用するといいでしょう。

おおよその被相続人の遺産総額がわかれば、表の近似の箇所で相続税額を確認できます。

<配偶者 + 子の場合>

課税価格(千円) 法定相続人の構成
配偶者 + 子1人 配偶者 + 子2人 配偶者 + 子3人
相続税額(千円) 相続税額(千円) 相続税額(千円)
50,000 400 100 0
60,000 900 600 300
70,000 1,600 1,130 800
80,000 2,350 1,750 1,380
90,000 3,100 2,400 2,000
100,000 3,850 3,150 2,630
150,000 9,200 7,480 6,650
200,000 16,700 13,500 12,180
250,000 24,600 19,850 18,000
300,000 34,600 28,600 25,400
500,000 76,050 65,550 59,630
1,000,000 197,500 178,100 166,350
3,000,000 741,450 738,000 674,330

<子のみ(配偶者がいない)場合>

課税価格(千円) 法定相続人の構成
子1人 子2人 子3人
相続税額(千円) 相続税額(千円) 相続税額(千円)
50,000 1,600 800 200
60,000 3,100 1,800 1,200
70,000 4,800 3,200 2,200
80,000 6,800 4,700 3,300
90,000 9,200 6,200 4,800
100,000 12,200 7,700 6,300
150,000 28,600 18,400 14,400
200,000 48,600 33,400 24,600
250,000 69,300 49,200 39,600
300,000 91,800 69,200 54,600
500,000 190,000 152,100 129,800
1,000,000 458,200 395,000 350.000
3,000,000 1,558,200 1,482,900 1,476,000

この表は、配偶者が法定相続分通りの相続割合で遺産を取得するのが前提です。

前項の例を表に当てはめた場合、課税価格が10億円で法定相続人が配偶者と子2人なので、配偶者の相続税額は1億7,810万円と、計算通りの金額になっています。

※表は各社の参考事例を軸に自社で作成

相続税の申告と納税

相続税の申告と納税

相続財産が基礎控除額を下回った場合は、相続税を申告する必要はありません。

ただし「配偶者の税額の軽減」と「小規模宅地等の特例」を利用した際は、制度適用後の相続財産が基礎控除額以下であっても、相続税の申告が必要です。

申告期限

相続税の申告と納付の期限は「相続が開始されたことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10ヶ月以内」です。

例えば2月21日に被相続人が亡くなり、相続人が同居の親族で、亡くなったことを即日知り得た場合には、申告期限は同年の12月21日(土日祝日の場合は税務署が休みのため次の平日)になります。

葬儀や諸手続き・遺産分割協議などが重なることを考えると、10ヵ月という期間は長くはありません。申告の準備は余裕を持って進めましょう。

ただし10カ月以内に遺産分割協議がまとまっていない場合、一旦、法定相続分で相続税を支払うという手続き(未分割申告)もあります。

申告期限を過ぎた場合

相続税の申告期限を過ぎると「無申告加算税」、納付期限が過ぎると「延滞税」が発生します。申告していなければ納付もできないため、2つのペナルティは同時にかかってきます。

延滞税は期限の翌日から納付する日までの日数に応じて加算され、2カ月以上遅れると税率が高くなる仕組みのため、一日でも早く申告・納税をする必要があります。

参照元:国税庁「相続税の申告と納税」

納税が難しい場合

相続税は一括での納付が原則ですが、相続税額が高すぎ、現金での一括納付が難しい場合もあるため、納付方法として「延納」や「物納」が認められています。

延納は相続税を分割で納付する方法、物納は不動産などの相続財産で納める方法です。

延納制度

相続税の延納制度は、現金での一括納付が難しい場合に相続税額を毎年分割で支払う制度です。

支払いは年1回で、延納期間や利率は相続した財産の種類によって異なりますが、期間は最短5年から最長20年までです。

延納期間や不動産割合など、ケースによっては利子税の割合が高くなるため、銀行などからの借入金で一括納付した方がいい場合もあります。

【延納の条件】

  • 相続税額が10万円を超える
  • 期限までの現金での納付が困難な理由がある
  • 不動産などの担保を提供できる
  • 納付期限内に延納申請書を提出する

相続税の延滞制度は、あくまで現金での一括納付が困難であるのが前提で、所轄税務署への申請が許可された場合にのみ利用できます。

参照元:国税庁「相続税の延納」

物納制度

相続税は原則として現金で納付する必要がありますが、一括納付や分割での延納も困難な場合、納付が困難な金額を限度として、相続財産による納付が認められています。

これが物納制度です。

納税者の申請による物納が認められた場合の利子税は、本来の納付期限から収納日までの期間に対しかかります。

【物納の条件】

  • 延納によっても現金での納付が困難な理由がある
  • 物納の要件を満たす相続財産がある
  • 納付期限内に物納申請書を提出する

物納の要件は非常に厳しく、必要書類の準備だけで数ヵ月、申請の許可が出るまでにさらに数ヵ月を要することもあり、年間の申請件数は多いとはいえません。

不動産を売却して現金での納付を選んだ方がいい場合もあるため、制度の利用が最適なのか、しっかりと検討しましょう。

参照元:国税庁「相続税の物納」

遺産相続による相続税以外の税金

遺産相続による相続税以外の税金

家族が亡くなった際には、相続税以外にも次のような税金が発生します。

  • 被相続人の所得税・住民税
  • 相続人の所得税・住民税
  • 固定資産税
  • 登録免許税

それぞれについて解説します。

被相続人の所得税・住民税

被相続人の所得税・住民税は、被相続人の生前の所得に基づいて生じる税金です。

被相続人が個人事業主や不動産オーナーなどであった場合には、確定申告が必要になります。

被相続人の生前の所得の申告を相続人が行うことを「準確定申告」といい、相続開始を知った日の翌日から4ヵ月以内に、申告と納付を行います。

また被相続人が1月2日以降に亡くなった場合、前年分の所得に基づいた住民税の納付も必要です。住民税は、その年の1月1日時点で日本国内に住所がある者に対して課せられます。

相続人の所得税・住民税

遺産相続により財産を取得しただけでは、相続人の所得税・住民税に影響はありません。

ただし、相続財産の売却や、遺産分割での換価分割で利益が生じた場合には、相続人に譲渡所得が発生します。

譲渡所得は翌年の3月15日の申告期限までに確定申告が必要で、譲渡所得に応じた所得税と住民税が課されます。

固定資産税

不動産の相続人が決まらないまま1月1日を迎えると、相続財産は相続人全員の共有財産とみなされ、全員が納税義務者となります。

固定資産税の納税義務者は1月1日現在の所有者のため、被相続人が納税を済ましている場合は問題ありませんが、未納の場合に固定資産税を滞納すると、延滞金がかかってきます。

滞納を避けるため、いったんは相続人の代表者が固定資産税を納税し、遺産分割の完了後に正式な所有者と税負担を調整するのが一般的です。

登録免許税

登録免許税は相続登記の際にかかる税金で、土地・建物いずれも「不動産価額 × 0.4%」が課税されます。

不動産を相続した者が相続登記を行うため、発生する登録免許税も不動産を相続した者が負担しますが、被相続人の遺言書などにより相続人以外の者が不動産を取得した場合、登録免許税の税率は2%となります。

参照元:国税庁「登録免許税の税額表」

遺産相続については税理士・弁護士に相談を

遺産相続については税理士・弁護士に相談を

遺産相続による相続税額の計算は非常に複雑で専門性を求められるため、相続人が個人で行うには難しい作業です。

さまざまな控除や特例なども影響するため、そもそも相続税がかかるのか・かかるとしたらいくらになるのか、正確な数字を知るためには、税理士など専門家に相談するようにしましょう。

税金の計算に間違いが生じると、延滞金に繋がる場合もあり、注意が必要です。

専門家への相談は、節税にも役立ちます。

また、遺産相続に関する相続人間での紛争解決については、弁護士が専門です。

遺産分割に時間がかかれば不動産の所有も曖昧になり、税金の滞納にも関わります。

遺産相続についての相続税の相談は税理士、紛争解決については弁護士に、早い段階での相談が安心です。

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