相続トラブルを弁護士に依頼するメリットとは?費用の相場や選び方も解説!

実際に相続に関するトラブルを抱えている人でも「弁護士に依頼するメリットはあるの?」「弁護士って裁判や調停のときに依頼するものなのでは?」など、一歩を踏み出せていない人が多いかもしれません。

弁護士は交渉のプロなので、裁判だけでなく、相続問題など難しい話し合いが必要な場面でも依頼するメリットがあります。法律に関する専門知識やノウハウが必要になる相続問題には、むしろ弁護士は強い味方になってくれるでしょう。

今回の記事では、相続トラブルを弁護士に依頼するメリットや、必要になる費用の相場・相続問題に強い弁護士の選び方までくわしく解説します。弁護士への依頼を迷っている人は、参考にしてください。

目次

相続トラブルを弁護士に依頼するメリット

相続トラブルを弁護士に依頼するメリット

相続にまつわるトラブルを弁護士に依頼するメリットはさまざまありますが、主に次のような点が挙げられます。

  • 相続に関する手続きを任せられる
  • 法律に基づいたアドバイスを受けられる
  • 親族間でのトラブルを事前に防げる
  • 相続トラブルを解決してくれる
  • 相続手続きに伴うストレスが軽減される
  • 調停・訴訟に発展した場合も対応を頼める

それぞれのメリットについて説明していきます。

相続に関する手続きを任せられる

相続を開始するためには、相続人の範囲の確定や相続財産調査のために、普段することのない書類の申請や作成をする必要があります。

  • 被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの戸籍謄本の取得
  • 預貯金の口座の確定
  • 不動産の評価額の調査
  • 遺産分割協議書の作成
  • 遺産分割後の相続登記 など

戸籍の読み取りは、慣れない人には難しい作業です。また戸籍を辿っているうちに、家族も知らない思わぬ相続人が出てくる場合もあります。

土地など不動産の評価額確定や相続登記も、一般の人だけでおこなうのは難しく、プロの力が必要になります。

相続に関連しておこなわなければいけない作業は、ケースにより他にもたくさんあり、普段の生活をしながら自分たちだけでおこなうには、かなりの手間と時間がかかるでしょう。

弁護士に依頼すれば、これらの作業を一括して任せられます。調査の漏れや書類のミスがでることもないので、トラブル発生のリスクもありません。

複雑な相続問題を弁護士に任せることで、手間や時間を省き、円滑に相続をおこなえます。

法律に基づいたアドバイスを受けられる

遺産相続は、誰もがいつかは当事者になり得る問題であり、ケースごとにそれぞれ内容や対応が異なる複雑な案件です。

情報はインターネットなどで調べられますが、自分のケースにぴったり該当するとは限らず、間違った対応さらに複雑な問題を招いてしまったり、取り返しがつかない損をしたりする可能性もあります。

弁護士がついていれば、法律に基づいた適切なアドバイスを得られます。さまざまな観点からの合理的なアドバイスにより、依頼人にとって有利で最適な結果に導くのが弁護士の仕事です。

親族間でのトラブルを事前に防げる

弁護士に依頼することで、相続による家族や親族間に起こるトラブルを回避できます。

相続による遺産分割においては、分割の割合や内容を巡って、相続人間でのトラブルが起きがちです。近い関係であるからこそ感情的にもなり、相続がきっかけで関係性が壊れてしまうということもあります。

相続により親族間でのトラブルが起きそうな場合は、早い段階で弁護士に依頼しましょう。事態が深刻化する前に適切なアドバイスをもらい、トラブルを未然に防ぐのが得策です。

相続トラブルを解決してくれる

親族間のトラブルにも繋がることですが、弁護士が間に入ることで、相続に関する話し合いが円滑に進みやすくなります。

当事者同士だけでは、それぞれの言い分や被相続人とのこれまでの関係性など、感情的になりやすく、話し合いが進まない場合がよくあります。

相続人でない家族・親族や友人などに第三者として交渉に加わってもらい、冷静な判断を任せるのもひとつの手段です。しかし弁護士資格のない人が、交渉などの行為に対して報酬を得ることは弁護士法違反になるので注意が必要です。また、弁護士資格のない人が間に入ることで、誤った法的判断のもとで適切な交渉が行えず、かえって問題が複雑化するケースもあるので要注意です。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

引用元:e-GOV法令検索 / 弁護士法第72条

弁護士は法律と交渉のプロのため、相続の話し合いに入ってもらう代理人も、弁護士への依頼をおすすめします。トラブルを未然に防いだり、起きてしまったトラブルの解決を任せたりと、頼りになる存在です。

相続手続きに伴うストレスが軽減される

身内を亡くすという精神的ショックの中、相続手続きにまつわる役所などでの手続きや、遺産分割のための調査や話し合いと、そのストレスははかり知れません。

遺産分割の協議がまとまらず、近しい関係だった親族と険悪になれば、精神的負担はさらに大きくなります。

相続関係の手続きを一括して弁護士に依頼すれば、自分たちだけでおこなうストレスは大幅に軽減されます。また、弁護士に相談したりアドバイスをもらったりすることで、慣れない相続手続きや遺産分割の話し合いに対する不安も解消できるでしょう。

調停・訴訟に発展した場合も対応を頼める

遺産相続の話し合いが円満に進まず、トラブルが深刻化してしまった場合には、調停や訴訟に発展する可能性があります。

弁護士は代理人として調停や訴訟に対応できますが、それ以前の早いうちから弁護士に相談していれば、経過も十分理解してくれている弁護士に、続けて代理人を頼むことが可能です。

もめごとが起こりそうだと予想される相続の最初の段階で弁護士に依頼することで、あらゆる手続きを一任でき、トラブルの回避も見込めます。ケースによってやむなく調停や訴訟に発展する場合も、同じ弁護士に代理人を任せることができるので、何が起こるかわからない相続問題において、弁護士への依頼は非常に有効な手段です。

弁護士に相談すべきケース

弁護士に相談すべきケース

相続トラブルにおいて、弁護士に相談したほうがいいと判断される代表的なケースは以下のとおりです。

  • すでにトラブルが発生している
  • 遺産分割の割合でもめている
  • 遺言書により遺留分を侵害されている
  • 被相続人から多額の生前贈与を受けていた相続人がいる
  • 相続放棄をしたい

相続人は何の問題もなく、すんなりと遺産の分割が行われるケースももちろんあるため、すべてを弁護士に依頼する必要はありません。

ここでは、弁護士を必要とする相続問題のケースについて解説します。

すでにトラブルが発生している

被相続人の遺言書の内容に著しい不公平がある・相続人同士の主張がぶつかり合って話し合いがまったく進まない、などのトラブルがすでに発生している場合は、早めに弁護士に相談しましょう。相続人だけで話し合いをそのまま続けても、親族関係がさらに悪化してしまううえに、時間が無駄になってしまうだけです。

弁護士が介入することで、これまでの経過や現状を判断し、依頼人にとって最良と思われる交渉・対応を進めてくれます。法的根拠に基づいた説明をしてくれるので、相手方の説得もしやすく、遺産分割協議も円滑に進むでしょう。

遺産分割の割合でもめている

民法に定められている法定相続分の割合は、以下の表のとおりです。

法定相続人 法定相続分の割合
配偶者

被相続人の子

配偶者:遺産総額の2分の1

被相続人の子:遺産総額の2分の1

配偶者

被相続人の親

配偶者:遺産増額の3分の2

被相続人の親:遺産総額の3分の1

配偶者

被相続人の兄弟姉妹

配偶者:遺産総額の4分の3

被相続人の兄弟姉妹:遺産総額の4分の1

(法定相続分)

第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。

二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。

三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。

四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第900条

上記の例は典型的な相続人のケースであり、該当しない場合も多々あります。

  • 被相続人に非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子)がいる
  • 配偶者に連れ子がいる
  • 被相続人に養子がいる
  • 代襲相続が発生している

代襲相続とは、被相続人の子がすでに死亡していて、その子(被相続にからみた孫)が相続人になることを指します。

このように、被相続人の家族関係によって遺産の分配割合が難しいと判断される場合には、弁護士への相談をおすすめします。非嫡出子や養子などについては、認知なども関係してくるため、相続人のみでの判断は難しいでしょう。

遺産分割協議は相続人全員でおこなう必要があり、相続人に漏れがある状態での遺産分割協議は無効になってしまいます。

要らぬトラブルを回避するためにも、弁護士に依頼するのが得策です。

遺言書により遺留分を侵害されている

遺留分とは、一定範囲の相続人に対して最低限保障されている遺産の取り分のことで、のちの章で詳しく触れます。

被相続人の遺言書によりこの遺留分が侵害された場合には、遺留分を取り戻すための権利を主張することが可能です。

侵害されている遺留分の算定方法や、権利の主張をどのようにおこなうかなど、自分だけでは難解な部分も多いため、遺留分が侵害されているとわかった時点で弁護士に依頼しましょう。

被相続人から多額の生前贈与を受けていた相続人がいる

一部の相続人に対する多額の生前贈与は特別受益と判断される場合があります。特別受益についても、のちの章でくわしく触れますが、ひとことで言えば「すべての相続人が公平に相続財産を分けるための制度」です。

一部の相続人だけが被相続人の生前に多額の援助を受けていた場合、そのまま法定相続分とおりに遺産分割をおこなうと、相続人が取得する金額に不平等が起きてしまいます。そのため、特別受益が判明した場合には、相応の手続きをおこなう必要があります。

特別受益はその判断自体がとても難しく、弁護士の知識を借りるのが懸命です。

特別受益は相続トラブルのもとになりやすく、親族関係を壊す原因にもなります。当事者同士での問題解決には限界があるため、弁護士に手続きを一任すべきケースといえます。

相続放棄をしたい

相続放棄についてもこのあとの章で触れますが、相続放棄には撤回が効かないため、相続放棄自体をするべきかどうか、慎重に判断しなければいけません。

相続放棄前に一定の行為を行った場合、相続放棄が出来なくなる可能性もあります。代表的な例としては相続財産を処分した場合ですが、相続放棄が出来なくなるケースは様々です。相続が発生した時点で、相続放棄をする可能性が少しでもあるのであれば、速やかに専門家のアドバイスを求めるのが賢明です。

また相続放棄の書類に不備があれば、相続放棄の書類が裁判所から受理されない可能性もあります。相続放棄には期限もあるので注意が必要です。

間違った判断や手続きを避けるため、相続放棄を考える場合には弁護士に相談しましょう。相続放棄によりかえって損をしてしまうような事態を避けられます。

相続にまつわる手続きや制度

相続にまつわる手続きや制度

ここでは、相続問題に取り組むうえで知っておくべき用語・手続きや制度について解説します。弁護士に相談するためにも、交渉を迅速に進めるためにも、基本的な用語は把握しておくべきです。

  • 遺言書
  • 遺産相続
  • 遺産分割
  • 遺留分
  • 遺留分侵害額請求
  • 相続放棄
  • 生前贈与(特別受益)
  • 寄与分
  • 成年後見

重要な項目は他にもありますが、一般的に必要なものとして、以上の項目について理解しておきましょう。

遺言書

被相続人は、自分の財産をどう遺したいのか「遺言書」で指定できます。例えば法定相続分以外の割合で遺産を分配したり、特定の相続人や相続人以外の人へ遺産を遺したりすることが可能です。つまり、遺言によって指定された相続方法は、法定相続より優先されます。

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言

遺言書の種類にはいくつかありますが、主なものはこの2種類です。

自筆証書遺言は自分だけで作成できる手軽さはありますが、要式が厳密に規定されているため、要式を満たしていなければ遺言書自体が無効になる危険性があります。

(自筆証書遺言)

第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第968条

せっかく作成した遺言書が無駄になる事態を防ぐため、弁護士に相談し、アドバイスを受けたり内容を確認してもらったりすると確実でしょう。

反面公正証書遺言は、原則として公証役場で、2人以上の証人のもとで作成するため、ミスが起こる可能性は少ないでしょう。

(公正証書遺言)

第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

一 証人二人以上の立会いがあること。

二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。

四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。

五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第969条

被相続人の自筆遺言書が見つかった場合は、勝手に封を開けてはいけません。遺言書の要式確認や、加筆訂正など偽造された痕跡がないか確認するため、家庭裁判所での「検認」手続きを行う必要があります。

公正証書遺言については、原本が公証役場に保管されているため、検認の必要はありません。

また2020年7月から、自筆証書遺言を管轄法務局で保管してもらえる制度が始まりました。この場合も遺言書の紛失や改ざんの危険性がないため、検認は必要ありません。

遺産相続

遺産を誰にどれだけ相続させるかは、被相続人が遺言書によって指定できますが、遺言書がない場合には、民法に定められた法定相続人が決まった順位に従って相続します。

相続順位 法定相続人
第1順位 直系卑属(被相続人の子・孫など)
第2順位 直系尊属(被相続人の父母・祖父母など)
第3順位 被相続人の兄弟姉妹
(子及びその代襲者等の相続権)

第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。

2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第887条

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)

第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。

一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。

二 被相続人の兄弟姉妹

2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第889条

(配偶者の相続権)

第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第890条

配偶者は必ず相続人となります。被相続人が亡くなった時点で配偶者と子がいれば、第1順位の相続人になるのは配偶者と子です。

遺産分割協議

被相続人の遺言書がなく、相続人が複数いる場合には「遺産分割協議」をおこなって遺産の分割方法を決定します。

遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があり、相続人がひとりでも欠けると協議が無効になるので注意しましょう。

遺産分割協議で話し合いに結論が出なかった場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停委員を介した形で裁判所で話し合いを続けます。調停でも合意が得られなければ審判に移行し、家庭裁判所が遺産の分割方法を決定することになります。

参照:遺産分割調停 / 裁判所

相続人のみでの遺産分割協議は話がもつれることも多く、調停や審判に発展する可能性を減らすためにも、弁護士に交渉の代理人を依頼するといいでしょう。

早いうちに弁護士に相談しておくと、調停や審判に移行した場合も、続けて代理人を頼むことができるので安心です。

遺留分

「遺留分」とは、一定範囲の法定相続人に最低限保障されている遺産の取得分です。

法定相続人 遺留分
配偶者・直系卑属 法定相続分の2分の1
直系尊属 法定相続分の3分の1

被相続人の兄弟姉妹には、遺留分は認められていません。

(遺留分の帰属及びその割合)

第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第1042条

被相続人が遺言書に遺留分を遺さない旨を記載していても、法律によって遺留分は守られます。

遺留分侵害額請求

遺言書の内容や贈与などによって遺留分を侵害された法定相続人は「遺留分侵害額の請求」をおこなうことにより遺留分を取り戻せます。

ただし遺留分侵害請求権には時効があるため、注意が必要です。

  • 相続開始(被相続人の死亡)と遺留分侵害を知ってから1年
  • 相続開始や遺留分侵害を知らない場合も、相続開始から10年
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第1048条

時効による権利消滅までに内容証明郵便で通知書を送るなど、請求した事実を記録として残しましょう。

相続放棄

「相続放棄」とは、相続人が被相続人の一切の財産を相続せず、最初から相続人として居なかったとみなされる制度です。

相続放棄の対象には、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産いずれもが該当し、遺留分も含まれます。

相続放棄は撤回ができないため、相続を放棄することが本当に自分の利益になるのか、しっかり判断する必要があります。

しかし相続放棄にも期限があり、自己のために相続の開始(被相続人の死亡)を知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申し立てをしなければいけません。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)

第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第905条第1項

熟慮期間が短いため、相続放棄を考える場合には、弁護士への相談をおすすめします。

また、相続放棄の期限が経過したとしても例外的に相続放棄ができる場合や、相続放棄の期限が到来しているかどうかの判断自体が難しいケースもあります。

そのため、たとえ相続放棄の期限が経過していると思われたとしても、相続放棄が出来ないと安易に判断して諦めるのではなく、弁護士に相談することをお勧めします。

生前贈与(特別受益)

「特別受益」とは、一部の相続人だけが被相続人から特別な利益を受けていた場合に、その利益を相続財産に加えた上で、その利益分を相続で得る財産から控除する制度です。特別受益は、相続人同士が平等な利益を得られるために定められています。

(特別受益者の相続分)

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第903条第1項

特別受益によって得た利益は相続財産から差し引いて計算されますが、利益を得た相続人が自ら特別受益を主張する義務はありません。他の相続人が誰も特別受益を主張しなければ、通常の法定相続分とおりの遺産分割がおこなわれてしまいます。

また、特別受益を主張しても利益を得た相続人が認めない場合や、特別受益は要件が複雑なため認められるのが難しい場合もあります。

特別受益が問題となりうる遺産分割協議は、弁護士に交渉を依頼すべき案件です。

寄与分

「他の兄弟姉妹は何もしなかったのに、自分は長年親の介護を献身的におこなった」「親の家業を無給で長年手伝っていた」など、被相続人に対して特別な貢献があった相続人には、その貢献度に応じた「寄与分」が認められる場合があります。

(寄与分)

第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第904条の2第1項

しかし寄与分には法律に定められた割合などの基準がなく、特別な寄与があったと証明するための要件も厳しいため、実際に寄与分が認められるケースはあまり多くありません。

成年後見制度

認知症や知的障害などの理由により、判断能力が低下した人の法的権利を守る制度を「成年後見制度」といいます。

後見の種類 内容の違い
任意後見 自分の判断能力が衰えた時に備え、本人があらかじめ後見人を選んでおく
法定後見 本人の判断能力の低下が認められる場合に、親族などが家庭裁判所に申し立て、裁判所に後見人を選任してもらう
(成年後見人の選任)

第八百四十三条 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第843条第1項

遺産分割協議の場に判断能力の低下した相続人が参加し、不平等な遺産分割がおこなわれることがないよう、成年後見人は本人の代理人として遺産分割協議に参加できます。

相続問題を弁護士に依頼した場合の費用の相場

相続問題を弁護士に依頼した場合の費用の相場

遺産相続案件を弁護士に依頼した場合、弁護士費用はどのくらいかかるのでしょうか。

かつては「日本弁護士連合会報酬等基準」によって弁護士費用は一律で決められていましたが、現在は廃止されたため、法律事務所ごとに費用は自由に決められます。

  • 相談料
  • 着手金
  • 成功報酬
  • 日当・実費・手数料など

主な弁護士費用は上記のとおりです。

実質的な相場というものがありませんが、現在もかつての基準を参考に費用を決定している事務所も多くあります。

相談料

初回の相談料については、30分~60分で5,000円~10,000円というのが目安です。

初回相談料を無料にしている事務所も多いため、公式サイトなどで確認するといいでしょう。

着手金

相談した案件に弁護士が正式に着手した時点で支払う費用が着手金です。結果的に思うような成果が得られなかった場合でも、返金はされません。

相続案件に対する着手金の目安は以下のとおりです。

相続によって得た利益 着手金の額
300万円以下 8%
300万円を超え3,000万以下 5%+9万円
3,000万円を超え3億円以下 3%+69万円
3億円超 2%+369万円

参照元:(旧)日本弁護士連合会報酬等基準

(旧)日本弁護士連合会報酬等基準を参考にしている場合でも、案件の複雑さなどにより金額が追加されたり、逆に安くなったりすることもあるため、あくまで目安と認識しておきましょう。

成功報酬

成功報酬は、得られた結果の程度に応じて支払います。

着手金と同じく、(旧)日本弁護士連合会報酬等基準を参考にしている場合には以下のような金額になります。

相続によって得た利益 報酬金の額
300万円以下 16%
300万円を超え3,000万以下 10%+18万円
3,000万円を超え3億円以下 6%+138万円
3億円超 4%+738万円

相続問題を弁護士に依頼する際には、どのくらいの報酬金が発生するか、目安を把握しておくといいでしょう。

日当・実費・手数料

着手金や成功報酬のほかに、弁護士が案件解決に向け動くことで発生する費用が、日当・実費・手数料などです。

費用の種類 内容
日当 弁護士が調査や裁判などで移動を伴った際に発生する費用
実費 裁判所に納める印紙・郵券(切手)代や、鑑定や調査で支払った費用など
手数料 遺言書・遺産分割協議書など書類作成にかかる費用など

これら諸費用は、調査先や書類を送付する相手方が多かったり、案件が長引いたりすると、案外積み重なってくる費用なので、余裕をみて計算に入れておきましょう。

相続問題に強い弁護士の選び方

相続問題に強い弁護士の選び方

法律と交渉のプロである弁護士とはいえ、すべての事案について精通しているわけではありません。

相続トラブルを任せるからには、相続問題に強い弁護士を選ぶ必要があります。

弁護士を選ぶ基準はたくさんありますが、おさえるべきポイントは以下のとおりです。

  • 相続問題にくわしい
  • その他の士業などとの連携がある
  • 説明がわかりやすく依頼人への対応が丁寧
  • 依頼人に不利な話もしてくれる
  • 弁護士費用関係が明朗

いずれのポイントも、法律事務所の初回無料相談等を利用し、いくつかの法律事務所に実際に足を運んで直接話してみるのが重要になります。

相続問題にくわしい

相続トラブルについて相談するのですから、相続問題にくわしい弁護士を選ばなければいけません。

まずは法律事務所の公式サイトをチェックし、相続案件をどのくらい取り扱っているか、事務所や弁護士個人にどのような解決実績があるかなど、相続問題に積極的に取り組んでいる事務所を探してみましょう。

その他の士業などとの連携がある

相続問題では、不動産に関する知識や、相続税など税金に関する知識も必要になります。

弁護士の知識だけでなく、不動産関係なら司法書士、税金関係なら税理士の知識を得られればさらに安心です。

多くの事務所は、司法書士や税理士、土地家屋調査士などと連携を結んで業務をおこなっています。

無料法律相談を利用して相談に訪れる際には、この点についての確認も忘れずおこないましょう。

説明がわかりやすく依頼人への対応が丁寧

弁護士との相性は、ある意味もっとも重要なポイントです。

依頼人に対し横柄な態度であったり、質問しても明確な答えをもらえなかったりする弁護士は避けるようにしましょう。

説明がわかりやすい・質問や疑問にすぐに対応してくれるなど、案件を依頼したあともストレスを感じない弁護士であるか、実際に弁護士と話して確認するのが大切です。

依頼人に不利な話もしてくれる

案件を進めていくうえで、依頼者にとって不利な状況が発生したり、認めたくない事実が出てきたりすることもあります。

そのような状況でも、弁護士が正直に現状を話してくれるか、そのうえで対応策をきちんと考えてくれるかは、結果にも大きく関わってきます。

依頼人にとって不利な情報も、その都度説明して解決に導いてくれるのが、良い弁護士です。

弁護士費用関係が明朗

弁護士に案件を依頼するうえで、費用がどのくらいかかってくるのかは、依頼人にとってもっとも気になるポイントです。

弁護士費用を明朗に公開し、どのくらいの費用になるのか目安を提示してくれる事務所を選ぶようにしましょう。

弁護士費用は安ければいいというわけではないですが、あまりに高額な事務所は商業主義で依頼者に寄り添ってくれない可能性が高いです。

状況に応じて費用がどのくらいになるか、都度ごとに説明してくれる事務所は安心です。

相続トラブルは弁護士に依頼しよう

相続トラブルは弁護士に依頼しよう

相続トラブルは親族間のもめごとであり、人間関係の悪化など、泥沼化しやすい問題です。

遺産分割やその他の手続きを、円滑・迅速に、ストレスなく終えるためにも、弁護士への依頼をおすすめします。

要件が複雑であったり、期限や時効があったりなど、法律にくわしくないと対応しきれない場合もあります。相続における損を避けるためにも、弁護士に相談するのが安心です。

今回の記事を参考に、相続問題に強い弁護士に依頼し、円満な相続をおこないましょう。

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