相続の際に家の名義変更をする場合の留意点と対処法

相続による家の名義変更は、法的な権利を守るためや、税務上の義務を果たすために適切に進める必要があります。今回の記事では、相続の際に家の名義を変更する場合の留意点と対処法について詳しく解説します。

目次

名義変更について

相続の際の名義変更について解説する前に、まずそもそも名義変更とは何なのか、なぜ名義変更が必要なのかについて説明します。

名義変更とは

例えば、親が亡くなった場合、あなたは親の遺産を引き継ぐことになります。この場合の親は「被相続人」、あなたは「相続人」と呼ばれます。被相続人が亡くなることにより、相続が発生します。

相続が発生すると、被相続人の遺産は相続人に引き継がれます。遺産が不動産である場合、被相続人の名義で登記されていることが通常ですが、相続が発生しても被相続人の財産の名義が自動的に相続人の名義に変更されるわけではありません。相続が発生した後、被相続人名義の不動産を相続人名義に変更する必要があります。

この手続きを「相続登記」または「名義変更」といいます。以下では、遺産が不動産であることを前提として説明します。

名義変更が必要な理由

不動産の登記について名義変更をするためには、法務局に申請しなければなりません。また、名義変更のためには費用がかかります。

つまり、名義変更をするためには費用と手間がかかります。なぜ費用と手間をかけてまで名義変更をする必要があるのか、以下ではその理由について説明します。

①売却しやすくなる

相続が開始すると、被相続人の財産は、法定相続分にしたがって相続人に相続されます。しかし、被相続人の名義のままでは、不動産の真の所有者と登記名義が一致せず、法的に不安定な状態です。登記名義を変更していない状態でも相続人が自分の持分を売却することはできますが、登記名義が被相続人のままだと買主が不安になり取引に応じない可能性があります。

また、不動産を担保に金融機関から融資を受ける場合、登記名義が相続人になっていないと金融機関は応じてくれません。

名義変更を行うことで、不動産の真の所有者と登記名義を一致させ、第三者に信頼を与えて売却や担保提供しやすくなるというメリットがあります。

②相続人間のトラブルを防ぐ

登記名義が被相続人のままだと相続人間での権利関係が不安定な状態となり、将来的にトラブルが発生する可能性があります。

例えば、2人の法定相続人が不動産を相続したとすると、2分の1ずつ持分を共有することになります。この状態のままだと一方の相続人が他方の相続人の共有持分を勝手に処分してしまう可能性があります。

③相続関係の複雑化を防ぐ

登記名義が被相続人のまま放置されると、相続人の死亡により二次相続が発生し、さらに相続人が増え、権利関係が複雑になります。

例えば被相続人の子が相続人である場合にその子が亡くなると、孫や配偶者が相続人となります。このように、登記名義が被相続人のまま相続人が増えていく複雑な状態になるため、早めに名義変更を行うことが重要です。

④固定資産税の課税対象者を明確にする

固定資産税は、不動産の所有者に課される税金です。登記名義が被相続人のままだと、税金の支払い通知が被相続人の住所に送付されるなどの問題が生じます。

名義変更を行えば、課税対象者を正確に特定でき、適切に税金を納付することが可能です。

相続登記に必要な書類

相続が発生した後に名義変更を行うためには、さまざまな書類を集める必要があります。以下では、相続登記に必要な書類を一つ一つ解説します。

基本的な書類

名義変更を行うために必ず必要となる基本的な書類として、被相続人に関する書類と相続人に関する書類の2つに分けられます。

①被相続人に関する書類

・被相続人の戸籍謄本

被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。取得先は、被相続人の本籍地の役所です。

・被相続人の住民票の除票

被相続人が住民票から抹消されたことを確認するために必要です。名義変更を行うためには、被相続人の最終住所を確認することが必要です。取得先は、被相続人の本籍地の役所です。

②相続人に関する書類

・相続人全員の戸籍謄本

法定相続人を確定するために必要です。全ての法定相続人を確定しないと、後で相続人が現れてトラブルになる可能性があるため、必ず相続人全員を確認するようにしましょう。

・相続人全員の住民票

相続登記後の連絡先や納税通知書送付先を特定するために必要です。取得先は、相続人の現住所地の役所です。

・相続人全員の印鑑証明書

遺産分割協議書や登記申請書に添付するために必要です。取得先は、相続人の現住所地の役所です。

不動産に関する書類

相続対象となる不動産に関する書類として、以下の2つが必要となります。

①登記事項証明書(登記簿謄本)

相続対象の不動産の情報を確認するために必要です。取得先は、不動産所在地を管轄する法務局です。

②固定資産評価証明書

登録免許税の計算や相続税申告の基礎資料として使用するために必要です。取得先は、不動産所在地の役所や、東京23区の場合は都税事務所です。

遺産分割協議に関する書類

相続人が複数の場合、法定相続とは異なる割合で遺産を分割したいときには遺産分割協議書が必要です。

遺産分割協議書とは、相続人が複数いる場合に、相続人間での遺産分配方法を協議した内容を記した書面です。不動産が複数の相続人間で共有となる場合、誰がどの財産を取得するかを決めるために遺産分割協議を行います。遺産分割協議書には全相続人の署名捺印が必要です。

名義変更の手続き方法

相続発生の際に不動産の名義変更をするための手続きの流れと手続きにかかる費用を説明します。

手続きの流れ

名義変更の手続きの流れを5つに分けて簡単に説明します。

①相続人の確定

被相続人の戸籍を遡り、全ての相続人を確認します。被相続人の配偶者は常に相続人となります。被相続人に子がいる場合には、子が第1順位の法定相続人となりますが、子がいない場合は被相続人の直系尊属である親などが第2順位の法定相続人となります。被相続人の親など直系尊属が全て亡くなっている場合、被相続人の兄弟姉妹が第3順位の相続人となるため、相続人が複雑となります。

②遺産分割協議の実施

相続人が複数いる場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分配方法を決定します。決定した内容は遺産分割協議書にまとめます。

③必要書類の準備

名義変更のために必要な戸籍謄本や住民票などの書類を役所などで取得します。

④登記申請書の作成

法務局に名義変更を申請するための書類を作成します。書類作成には専門的な知識が必要なため、司法書士に依頼するのが通常です。

⑤法務局での申請

不動産所在地を管轄する法務局に名義変更を申請します。

手続き費用

名義変更のための手続き費用は主に2つあります。

①登録免許税

不動産を名義変更するためには、登録免許税と呼ばれる税金を支払う必要があります。登録免許税は、不動産の固定資産税評価額の0.4%とされています。

②司法書士への費用

不動産の名義変更については専門的な知識が必要なため、登記の専門家である司法書士に依頼するのが通常です。司法書士に依頼した場合、費用として10万~30万円程度が一般的です。

名義変更の留意点

相続の際の名義変更にはいくつか注意すべき点があります。以下では、3つの留意点について解説します。

法定相続と異なった割合にしたい場合、遺産分割協議が必要

法定相続人が複数いる場合、相続により複数人が不動産を共有することになります。法定相続分で登記をするのであれば比較的簡単ですが、不動産をいずれかの相続人に単独で取得させる場合や共有割合を変更する場合は遺産分割協議が必要です。

遺産分割協議を行うには相続人全員が集まる必要があり、相続人同士が疎遠であったりすると協議が思うように進まないリスクがあります。

不動産の権利主張が事実上困難になる

名義変更をしない場合であっても、相続人は相続により不動産の所有権を取得しますが、名義変更をしないまま放置していると事実上不動産の売却や担保提供が困難になるリスクがあります。

相続を知った日から3年以内に名義変更の申請を行う必要がある

後述のとおり、相続の際に登記の申請を行うことが義務化されました。相続人は、相続を知った日から3年以内に名義変更の申請を行う必要があり、これを怠ると10万円以下の科料を科される場合があります。

税務上の注意点

相続の際の名義変更には、相続税などの税金が発生することから、税務上も注意すべき点がいくつかあります。以下では、税務上留意すべき点を2つ紹介します。

相続税の申告と納付

不動産を相続により取得した場合、相続税が発生する可能性があります。不動産の価格が基礎控除額を上回る場合、その分に相続税が発生します。

基礎控除額は、3,000万円+(600万円×相続人の人数)で計算されます。不動産の相続税評価額は「路線価」または「固定資産税評価額」を基準に計算されます。

例えば、相続した不動産の価格が5,000万円で、相続人が2人である場合、基礎控除額は4,200万円であるため、基礎控除額を控除した800万円に相続税がかかることになります。

相続税の納付期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。

小規模宅地等の特例を利用する

被相続人が住んでいた家屋や土地を一定条件下で相続する場合、評価額が80%減額される特例があります。このような特例を利用することで、相続税を減らすことができますので、積極的に活用しましょう。

相続人が単独の場合と複数の場合の違い

ここでは、相続人が単独の場合と複数の場合の違いを比較して説明します。

相続人が単独の場合

相続人が1人である場合、遺産分割協議は必要ないため比較的スムーズに名義変更を行うことができます。ただし、被相続人が遺言書を残しており、不動産を法定相続人以外に遺贈する旨などが記載されている場合、注意が必要です。

相続人が複数の場合

相続人が複数の場合、相続人全員が不動産を共有する形で相続することになります。よって、不動産を売却したり担保に供したりする場合には、共有者全員で手続きを進める必要があります。

共有名義の不動産は後々のトラブルの原因となりやすいため注意が必要です。トラブルを避けたい場合、速やかに遺産分割協議を行い、協議に従って名義変更を行いましょう。

相続登記の義務化について

相続登記については費用と手間がかかることから、登記をせずにそのまま放置されている事例が多く発生し、空き家問題などにつながっていました。そこで、令和6年4月1日より相続登記の申請が義務化されることになりました。相続や遺言によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行う必要があります。

正当な理由がないのに相続登記の申請を行った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。過料を支払わなかった場合、不動産などを差し押さえられる可能性もあります。

よって、相続が発生したことを知った場合は、速やかに相続登記を行うようにしましょう。

専門家の活用

不動産を相続する場合には、法律上や税務上のさまざまな問題が発生します。また、専門的な手続きが必要であり、自分で全ての手続きを行うことは困難が伴います。よって、相続発生後の名義変更の際には専門家を積極的に利用することをおすすめします。以下では、名義変更の際によく登場する専門家の役割を説明します。

司法書士

司法書士は登記の専門家です。不動産の名義変更を行う場合には不動産の登記名義を変更するための申請書類を作成する必要がありますが、司法書士に依頼すればスムーズに作成してくれるでしょう。

弁護士

弁護士は法律の専門家です。遺産分割協議の際に相続人間で争いが起きたり、契約書を作成する必要が生じたりした場合などは弁護士に依頼しましょう。

税理士

税理士は税金の専門家です。相続の際には相続税、贈与税、登録免許税などさまざまな税金がかかる可能性があります。どれくらいの税金がかかるかを知りたい場合や、税務申告の手続きを代理してもらいたい場合は、税理士に依頼しましょう。

よくあるトラブルとその対処法

相続の際には相続人間でのトラブルなどが発生する可能性があります。以下では、相続の際によくみられるトラブルとその対処法について解説します。

相続人間の意見の不一致

相続人が複数いる場合、相続によって不動産を相続人間で共有することになります。共有のままだと不動産の活用に支障が出るおそれがあるため、通常は遺産分割協議により不動産の所有者を決定します。

しかし、相続人間の意見が合わず遺産分割協議がまとまらない場合があります。その場合、相続人間の任意の話合いでは解決することが難しいため、家庭裁判所に調停や審判を申し立てる必要があります。

書類の不備

相続不動産の名義変更には様々な書類を用意する必要があります。提出書類に不備がある場合、法務局での審査に時間がかかり、最悪の場合受け付けてもらえない可能性があります。手続きを確実に行いたい場合には、司法書士などの専門家に依頼するようにしましょう。

名義変更を円滑に進めるためのポイント

以上みてきたように、相続不動産の名義変更の際には留意すべき点があり、適切に対処しないとトラブルに見舞われる可能性があります。以下では名義変更を円滑に進めるためのポイントをまとめましたので、改めて確認するようにしましょう。

必要書類を早めに揃える

先ほども説明したとおり、相続不動産の名義変更には様々な書類を用意する必要があり、不備があると名義変更に時間がかかってしまいます。必要書類は早めに揃えるようにし、不明な点がある場合は司法書士などの専門家にアドバイスをもらいましょう。

遺産分割協議を公平・円満に進める

相続人が複数いる場合、相続不動産は相続人間で共有されることになります。共有のままですと不動産が活用しづらいため、通常は遺産分割協議により不動産の所有者を誰にするかを確定します。相続人間で争いが起こった場合、遺産分割協議がまとまらないため、公平・円満に進めることを心がけましょう。

専門家のサポートを活用する

相続が発生した後に名義変更を行うためには、法律上や税務上の注意点があります。自分一人では難しいと感じた場合には司法書士や税理士などの専門家のサポートを活用するようにしましょう。専門家に依頼する場合には費用を支払う必要があるため、見積もりを取って納得できるのであれば依頼しましょう。

相続税の申告期限や相続登記の期限を守る

相続税が発生する場合、先ほども説明したとおり、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税を納付する必要があります。

また、令和6年4月1日から相続登記が義務化されたため、相続によって所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行う必要があります。

期限を守らないと不利益を受ける可能性がありますので、期限を守るように心がけましょう。

将来のトラブルを未然に防ぐ手段を講じる

相続人間で争いが起きることが予想される場合、弁護士に依頼すれば、他の相続人との交渉を代理してもらうことによりトラブルを未然に防ぐことが可能です。

まとめ

相続による不動産の名義変更には多くの手続きや配慮が必要ですが、計画的に進めることができれば、大きなトラブルなくスムーズに行うことが可能です。トラブルを防ぐためには、相続人間の協力と専門家の支援を活用し、適切に対応することが重要です。

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この記事を書いた人

山室 拓也のアバター 山室 拓也 弁護士

日々ご相談を頂く中で法律問題ではない相談に直面することもございます。司法書士、社労士、税理士、弁理士といった士業と連携するにとどまらず、探偵業、不動産業、製造業等を営む方とのネットワークを有することで、法律問題に限らず法律以外の解決策を提示させていただくなど、相談者様に寄り添った解決策を導き出します。

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