遺産相続で騙される?相続人に不利な不正な手続きとは?

遺産相続で騙される?相続人に不利な不正な手続きとは?

遺産相続の手続きは、被相続人の財産を正式に継承するための重要なものですが、中には不正行為が行われるケースもあります。

どのような不正行為があるのか、また不正が疑われる場合にどのように対処すべきかわからないという人も多いのではないでしょうか。

今回の記事では、遺産相続手続きに関する具体的な不正事例や不正行為の調べ方、対処方法などについて解説します。

相続人として不利な立場に立たされる状況を避けるためにも、ぜひ参考にしてみてください。

目次

遺産相続手続きに関する不正とは

遺産相続手続きに関する不正とは

遺産相続手続きは、亡くなった人の財産を相続人へ適正に引き継ぐために行う手続きです。

遺産の調査から遺産分割の話し合い・相続税申告・遺産の名義変更など、遺産相続に関する一連の手続きを指します。

この手続きに関連して、一部の相続人や関係者が不正行為を行い、ほかの相続人に不利な状況を生じさせるケースがあります。

遺言書の偽造や遺産の隠匿・着服、勝手な相続放棄手続きなど、不正行為の種類はさまざまです。

たとえば民法では、相続人の欠落事由を以下のとおり定めており、特定の不正行為を行うと欠落事由に該当し相続権を失う可能性もあります。

(相続人の欠格事由)第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第891条

遺産相続には法的な手続きが多く含まれるため、個人で不正を見抜くのが難しい場合もあるでしょう。

不正を防ぐためには、相続人と連携して手続きの透明性を高める、法律の専門家である弁護士のサポートを受けるなどの対策が有効となります。

遺産相続手続きに関する不正事例7選

遺産相続手続きに関する不正事例7選

遺産相続手続きにおいては、次のようにさまざまな不正行為が発生する可能性があります。

  • 遺言書が偽造された
  • 遺産を隠された
  • 自分が関与しないまま遺産分割をされた
  • 遺産分割の際に騙された
  • 相続人ではない者が遺産を取得した
  • 遺産の使い込みがされた
  • 相続放棄の手続きを勝手にされた

上記のケースは、それぞれ異なる方法で相続人に不利な状況を生じさせます。

各不正事例について、以下で具体的に見ていきましょう。

遺言書が偽造された

遺言書の偽造は、遺産相続手続きにおける深刻な不正行為の一つです。

遺言書が偽造されると、本来の相続人が受け取るべき遺産が不当に分配され、遺産の配分に大きな影響を与えます。

民法では、相続人の欠格事由の一つに遺言書の偽造を挙げており、偽造を行った人は相続人となる権利を失います。

(相続人の欠格事由)第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第891条5項

また、遺言書の偽造などについては、刑法の私文書偽造等罪に該当する行為です。

刑事罰は3カ月以上5年以下の懲役と規定されており、民事・刑事それぞれで重い法的責任を負うことになります。

(私文書偽造等)第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
引用元:e-GOV法令検索 / 刑法第159条第1項・2項

偽造が疑われる場合には、筆跡や遺言書の内容の不自然さなどから判断していくのが一般的です。

裁判手続きが必要となるケースも考慮し、まずは弁護士に相談して、適切な対応を取りましょう。

遺産を隠された

遺産相続手続きの不正行為の一つとして、一部の相続人が意図的に遺産を隠すケースがあります。

遺産隠しは、被相続人と同居していたなど、財産管理ができる環境にある相続人がいる場合に起こりがちです。

たとえば被相続人から生前聞いていた財産と実際の遺産に大きな相違がある場合や、財産管理をしていた相続人が遺産の詳細を濁している場合は、遺産隠しが疑われます。

意図的な遺産隠しがあった場合には、錯誤または詐欺による遺産分割協議の取消しを求め、遺産分割協議のやり直しを主張しましょう。

(錯誤)第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第95条・第96条

また、相続税の申告をしている場合、隠されていた財産の額によっては相続税の修正申告が必要な場合もあります。

自分が関与しないまま遺産分割をされた

自分が関与しないまま遺産分割が行われた場合も、不正な相続手続きの一例です。

原則として、遺言書が残されていない場合の遺産分割は、相続人全員の合意をもとに行わなければなりません。

相続人の一部を関与させずに勝手に遺産分割手続きを進めた場合、その手続きは無効となります。

また、相続人がもつ相続権を侵害された際は、「相続回復請求権」を行使して、本来受け取れるはずだった遺産を取り戻すことが可能です。

相続回復請求権は、相続権を侵害された事実を知ってから5年、知らなかった場合でも相続開始から20年経過すると消滅してしまいます。

(相続回復請求権)  第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第884条

勝手に遺産分割が行われていた場合は、時効が成立する前に遺産の返還を請求しましょう。

遺産分割の際に騙された

遺産分割の際にほかの相続人に騙され、不利な条件で承認してしまうケースも、相続における不正事例の一つです。

たとえば、協議を有利に進めるために、遺産の価値を実際よりも低い金額で伝えたり、生前に受けた多額の贈与を黙っていたりするケースが挙げられます。

嘘で騙されて行った遺産分割の意思表示は、遺産を隠された事例と同様に、「錯誤」もしくは「詐欺」に該当すれば取消しが可能です。

ただし、取消権は追認できるときから5年間、もしくは遺産分割から20年経過すると時効によって消滅してしまうため注意しましょう。

(取消権の期間の制限)第百二十六条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第126条

遺産分割で騙された、嘘をつかれたと感じた場合は、早めに弁護士へ相談して対策を講じるのをおすすめします。

相続人ではない者が遺産を取得した

不正な相続手続きの中には、相続人ではない者が遺産を取得するケースもあります。

相続権を持たない人は、被相続人の遺言で指定がない限りは遺産を相続できません。

相続人ではない人が勝手に遺産の預貯金を引き出したり、株式を売却したりした場合には、不当利得返還請求によって金銭の取り戻しができます。

(不当利得の返還義務)第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第703条

また、勝手な遺産の取得によって損害を受けた場合は、不法行為による損害賠償請求も可能です。

(不法行為による損害賠償)第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第709条

なお、相続人ではない人が勝手に相続手続きを行っている場合、遺言書や遺産分割協議書などの偽造が疑われるため、弁護士への相談も検討しましょう。

遺産の使い込みがされた

遺産の使い込みは、相続手続きの中で発生する不正行為の一つです。

たとえば、相続人の一人が遺産を私的に使用したり、勝手に自分のものにしたりするケースが挙げられます。

本来であれば、他人の財産を使い込む行為は横領罪や窃盗罪に該当しますが、配偶者や子ども・同居の親族であった場合には罪が免除され、処罰の対象にはなりません。

(親族間の犯罪に関する特例)第二百四十四条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
引用元:e-GOV法令検索 / 刑法第244条第1項

そのため、遺産の使い込みが明らかになった場合には、以下のような証拠を集めて不当利得返還請求、もしくは不法行為による損害賠償請求を検討しましょう。

  • 預金口座の取引履歴
  • 株式の取引明細書
  • 不動産の売買契約書
  • 使い込みが行われた時期の被相続人のカルテ・診断書・介護記録など

遺産の使い込みを個人で立証するのは困難であるため、必要に応じて弁護士などの専門家に相談するのが推奨されます。

相続放棄の手続きを勝手にされた

相続放棄の手続きを勝手にされた場合も、不正な相続手続きに該当します。

相続放棄とは、被相続人の遺産を一切相続しないと選択した際に行う手続きです。

本人の意思によって行われるものであるため、他人が勝手に相続放棄することはできません。

万が一無断で相続放棄申述書を偽造されて受理されてしまったとしても、相続放棄は無効となります。

なお、脅迫されたり騙されたりして本人が相続放棄してしまった場合、家庭裁判所に対して相続放棄の取消しを申述できます。

(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4 第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
引用元:e-GOV法令検索 / 民法第919条

ただし、脅迫や詐欺を立証するのは困難であるため、もし相続放棄するよう脅されたら早めに弁護士へ相談するようにしましょう。

遺産相続手続きの不正を調べる方法

遺産相続手続きの不正を調べる方法

遺産相続手続きにおいて不正が疑われる場合、主な調べ方として、自分で調査する方法と弁護士に依頼する方法があります。

費用を抑えたい場合には自分で行い、負担を軽減させたい場合には専門家である弁護士に任せるのがおすすめです。

それぞれの調査方法について、以下で詳しく解説していきます。

自分で調査

まずは、自分で遺産相続手続きの不正を調べる方法について解説します。

不正によって調べる内容は異なりますが、相続手続きの不正行為として問題となりやすい、預貯金の使い込みの調査方法を見ていきましょう。

預貯金の使い込みの調査方法は、主に次の2つです。

  • 被相続人の口座の通帳を記帳する
  • 銀行で被相続人の口座の取引明細書を発行してもらう

手元に預金通帳があれば、記帳して取引履歴を確認するのがもっとも手軽です。

銀行にもよりますが、記帳すると過去半年から1年分の取引履歴が把握できます。

預金通帳がない場合には、口座のある銀行で取引明細書を発行してもらいましょう。

本来であれば取引明細書は名義人本人のみ発行できるのが原則ですが、本人が死亡している場合、相続人の申請による発行も可能となります。

不正な送金や引き出しがあれば、通帳記帳や取引明細書で確認できる取引内容によって明らかにできます。

ここでは例として預貯金の事例を確認しましたが、財産が多岐にわたる場合や巧妙な不正手続きの事例など、自分で調査するのが困難なケースは少なくありません。

弁護士へ依頼

不正行為に対してより確実に調査を進めたい場合は、弁護士への依頼を検討しましょう。

弁護士は、弁護士会照会という法律上の制度によって、弁護士会を通じた証拠・資料収集や事実調査が可能です。

(報告の請求)第二十三条の二 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
引用元:e-GOV法令検索 / 弁護士法第23条の2

相続問題における弁護士会照会では、以下のような情報の照会ができる可能性があります。

  • 預貯金口座の有無や残高・取引履歴
  • 預金の払い戻しや解約をした人物に関する情報
  • 生命保険の受取人の名義変更に関する情報
  • 被相続人の要介護の認定結果
  • 被相続人のカルテや介護記録

これらの照会によって、遺産隠しや遺産の使い込み・第三者による勝手な手続きなどの証拠を集めやすくなります。

不当利得返還請求や不法行為による損害賠償請求に向けた証拠集めが必要な場合は、情報照会が可能かどうかも含めて一度弁護士に相談してみるのがおすすめです。

不正な遺産相続手続きが発覚した際の対処法

不正な遺産相続手続きが発覚した際の対処法

不正な遺産相続手続きが発覚した場合、適切な対処が必要です。

具体的な対処法には、以下のような方法が挙げられます。

  • 当事者同士で話し合う
  • 弁護士に相談する
  • 遺産分割調停を利用する
  • 訴訟の提起を検討する
  • 遺留分侵害額請求を行う

それぞれどのような対処法なのか、以下で一つずつ解説していきます。

当事者同士で話し合う

最初に試みるべき対処法は、当事者同士での話し合いです。

自分や相手の勘違いである可能性も考慮し、話し合う余地があればまず話し合いの場を設けましょう。

話し合いを通じて誤解を解消することで、問題の平和的な解決が期待できます。

不正な手続きがあった場合の具体的な解決策としては、手続きの取消しや遺産の返還、使い込みがあれば遺産分割で相殺するなどが挙げられます。

調査によって取得した証拠があれば相手に提示し、感情的にならないよう冷静に話し合いましょう。

弁護士に相談する

話し合いに不安がある場合や、悪意のある不正行為が疑われる場合には、弁護士に相談するのが有効です。

当事者同士では解決が難しくても、専門家である弁護士が介入することによって交渉がスムーズに進む可能性もあります。

また、弁護士は相続に関する専門知識を持っており、法的な視点から適切なサポートを提供してくれます。

調停や訴訟といった裁判所を通した手続きを検討する上でも、弁護士のアドバイスは大きな助けとなるでしょう。

遺産分割調停を利用する

当事者間の話し合いで解決が見込めない場合は、遺産分割調停の申し立てを検討しましょう。

遺産分割調停とは、家庭裁判所の調停委員会を介して、遺産をどのように分けるかについて合意を目指す手続きです。

調停では公正かつ中立な立場の調停委員が間に入るため、相続人同士での感情的な対立を避けられるメリットがあります。

遺産分割調停をスムーズに進めるために、自分が主張したい内容は事前にメモにまとめておくようにしましょう。

また調停を有利に進めるためには、自分の主張だけでなく相手方の言い分を理解する姿勢を見せることや、客観的な証拠を用意しておくことも重要です。

なお調停が不成立になった場合には、裁判所が客観的な立場から判断する遺産分割審判手続きに移行します。

訴訟の提起を検討する

遺産分割調停・審判では解決が難しい状況にある場合には、訴訟の提起を検討しましょう。

訴訟手続きには時間と費用がかかるものの、問題の解決を図るためには避けられない場合もあります。

遺産相続手続きにおける不正行為がトラブルの原因であれば、状況に応じて不当利得返還請求や損害賠償請求などの訴訟を提起します。

訴訟においては、具体的な証拠と法的な根拠が必要です。

自分だけで対応するのは難しいケースが多いため、弁護士に相談し、適切な戦略を立てて進めていきましょう。

遺留分侵害額請求を行う 

被相続人からの遺言によって遺留分が侵害された場合は、遺留分侵害額請求を行いましょう。

遺言の偽造が疑われる状況であっても、証拠が不十分であれば立証は困難です。

そういった場合であっても、遺留分侵害額請求を行うことで遺留分のお金は受け取れます。

なお遺留分とは、一定範囲の相続人に対して、最低限保証された遺産の取り分です。

(遺留分侵害額の請求)第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

引用元:e-GOV法令検索 / 民法第1046条・第1042条・第1043条第1項

たとえば、「長男にすべての財産を渡す」といった内容の遺言があったとしても、遺留分が認められている相続人は、長男に対して遺留分侵害額請求を行えば最低限の遺産を取り戻せます。

請求方法としては、遺留分を侵害した相手との話し合いや、内容証明郵便による請求書の送付が一般的です。

相手が遺留分の支払いに応じてくれない場合は、弁護士に相談の上、調停や訴訟による請求も検討しましょう。

不正な遺産相続手続きがされた場合の注意点

不正な遺産相続手続きがされた場合の注意点

遺産相続手続きで不正が行われた場合、相続人はその後の対応に注意しなければなりません。

次のようなケースでは、不正な手続きをされた場合でも、遺産の取り戻しが難しくなる可能性があるためです。

  • 時効が成立した場合
  • 証拠がない場合
  • 相手が資産を持っていない場合

以下では、不正な遺産相続手続きがされた際に注意すべきケースについて、具体的に解説します。

時効が成立した場合

時効が成立した場合、不正に取得された遺産を取り戻せなくなってしまう可能性があります。

不当利得返還請求や不法行為による損害賠償請求、相続回復請求権などの請求権には、それぞれ時効が規定されています。

請求権時効期間
不当利得返還請求・権利を行使できることを知ったときから5年間・もしくは権利を行使できるときから10年間
参考:e-GOV法令検索 / 民法第166条第1項
不法行為による損害賠償請求・損害および加害者を知ったときから3年間・もしくは不法行為が行われたときから20年間
参考:e-GOV法令検索 / 民法第724条
相続回復請求権・相続権の侵害を知ったときから5年間・もしくは相続開始から20年間
参考:e-GOV法令検索 / 民法第884条
遺留分侵害額請求権・相続の開始および遺留分の侵害を知ったときから1年間・もしくは相続開始から10年間
参考:e-GOV法令検索 / 民法第1048条

これらの時効が成立してしまうと、不正を立証できたとしても法的な対処が難しくなるため、早急な対応が必要です。

遺産相続手続きに関する不正が疑われる場合には、早めに弁護士へ相談し、適切な対策を講じましょう。

証拠がない場合

不正な遺産相続手続きの証拠がない場合も、不正行為を追及したり遺産を取り戻したりするのが困難になります。

法的処置を取るためには、相手の不正行為を立証できる証拠が必要です。

一部分の証拠があったとしても、不正行為を客観的に証明するのは難しいケースもあるでしょう。

証拠が不足している場合には、弁護士へ相談し、有効な証拠収集方法についてアドバイスを求めるのがおすすめです。

相手が資産を持っていない場合

不正な遺産相続手続きを行った相手が資産を持っていない場合、遺産の回収が難しくなる場合があります。

訴訟によって相手に返還命令が下されても、資産がなければ事実上返還できないためです。

このような状況を避けるために、遺産の使い込みが疑われる場合などには、相手の資産が残っているうちに口座の差し押さえなどの対策を取る必要があります。

不正の疑いがあれば早めに弁護士に相談し、状況に応じた最適な対応策を検討しましょう。

不正な遺産相続手続きの際に弁護士に相談するメリット・デメリット

不正な遺産相続手続きの際に弁護士に相談するメリット・デメリット

遺産相続手続きで不正があったとき、弁護士に相談する際にはメリットとデメリットの両方があります。

弁護士に相談するのは、不正行為があった場合の有効な手段ですが、相談する前にプラスになる点とマイナスになる点を押さえておきましょう。

以下では、具体的なメリットとデメリットについてそれぞれ解説していきます。

弁護士に相談するメリット

遺産相続手続きの不正について弁護士に相談すると、以下のようなメリットがあります。

  • 不正が行われた証拠を適切に集められる
  • 不正した相手との交渉を任せられる
  • 訴訟を起こす際もサポートしてもらえる
  • その後の相続手続きに関しても相談できる

弁護士はさまざまな手続きや交渉の代理が可能なため、負担の大きい証拠集めや相手との交渉を任せられます。

また、話し合いで解決が見込めない場合は訴訟に移行する場合がありますが、弁護士のサポートがあれば訴訟手続きもスムーズに進められるでしょう。

不正問題だけでなく、相続手続き全般に関するアドバイスが受けられるのも、弁護士に相談するメリットです。

弁護士に相談するデメリット

遺産相続手続きの不正について弁護士に相談する際のデメリットとして、以下の3つが挙げられます。

  • 弁護士費用がかかる
  • 相手との関係が悪化する場合もある
  • 期待した結果が得られない可能性がある

弁護士に依頼する場合は、実費以外にも着手金や報酬金といった弁護士費用が発生します。

また、弁護士を介すことで不正が疑われる相手との関係性が悪化する可能性や、必ずしも期待どおりの結果になるわけではない点も考慮しておく必要があるでしょう。

弁護士への依頼を検討する際は、メリットだけでなくデメリットも踏まえた上で判断してみてください。

遺産相続手続きの不正が疑われる場合は弁護士に相談しよう

遺産相続手続きの不正が疑われる場合は弁護士に相談しよう

遺産相続手続きにおいて不正行為が行われると、相続人にとって大きな不利益が生じる可能性があります。

遺言書の偽造や遺産隠し、自分が関与しないままの遺産分割など、不正行為は多岐にわたります。

もし不正が疑われる場合には、早めに弁護士へ相談し、どのように対処すべきかアドバイスを受けるのがおすすめです。

相続問題を得意とする弁護士であれば、個別の状況に応じたサポートを提供してくれるため、スムーズな問題解決が期待できます。

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